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ムッシュKの日々の便り

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Foie gras

 今回は高級食材、「フォア・グラ」の話。フォワ・グラは人工的に肥大させた鵞鳥や鴨の肝臓である。フランスではとりわけ珍重されるご馳走だが、いつも食卓に上るというものではなく、クリスマスや大晦日の夜(レヴェイヨン)などに出される場合が多い。
 ヨーロッパの今年のクリスマスは、金融危機などの影響で例年より質素なのではないかとも言われる。それでもクリスマスは特別で、わが家の縁者は例年通りにピレネー山中の別荘(前に写真で紹介した家)に出向いてクリスマスを迎えるという。
 フランスで勤務をしていたある年のクリスマス・イブの夜、ドイツやスイスとの国境に近いミュルーズという街からパリへ飛行機で帰って来たことがあった。そのときの光景が忘れられない。闇に覆われた大地の所々に、煌々と輝く場所がある。イリュミネーションの明かりで照らされた街で、そこには静かにクリスマスを祝う家庭があることが想像された。遅く着いた家の食卓にもフォア・グラが用意されていた。
 フォア・グラをつくるには、ガチョウの口に如雨露につないだ管を押し込み、餌のトウモロコシを1日3回、飲み込むように食べさせる。すると1カ月で肝臓は2キログラムにもなり、頃合いを見て出すのである。冷えたシャンパなどと一緒に食べるとこたえられない。
 そのフォア・グラがこのところ、無理矢理に餌を与えて肝臓を太らせるのは「動物虐待だ」という批判にさらされている。オーストリアに本部のある動物擁護団体“Four Paws(四足)”が、反フォア・グラのキャンペーンを行い、現にイタリア、オーストリア、チェコ、デンマーク、ドイツなどでは強制的に餌をやることが法律で禁止された。アメリカでもカリフォルニア州では来年から禁止になるという。ヨーロッパを中心にした航空会社では、ファースト・クラスの機内サービスでフォア・グラを出さないところが増えている。
 世界のフォア・グラ生産の73%はフランス産で、フランス議会は2005年5月に、フォア・グラはフランスの食文化だという決議をして、あくまでこれを守る姿勢をうち出した。
 フランスでも最大手の生産者「ルジエ(Rougier)」を取材した折、家に泊めてもらったことがあるが、広い土地に丸々と太った数千羽のガチョウが放し飼いになっていた。ルジエ氏の自宅は、フランス中西部を流れるドルドーニュ川畔に建つ古城の一つで、隣にある城は文学者フェヌロンが生まれたことで有名な城であった。
 ルジエ氏は農場の中に自家用飛行機の滑走路をつくり、所用には自分で操縦桿を握って出かけていくということだった。フォア・グラの生産地としてはドルドーニュ川近辺のほかに、北のノルマンディー地方や南フランスのトゥールーズなどが有名である。ただ、最近は世界的なトウモロコシの価格高騰で大変だということである。
 フォア・グラは日本ではあまり馴染みがないが、パンに塗ったりソテーしたり、あるいは鵞鳥や鴨の肉を油に漬けてコンフィという保存食にする。太ったトリの肝臓が美味しいとして食べられたのは古代エジプトにさかのぼる。渡り鳥が遠くへ飛ぶ前にエネルギーを蓄えるために肝臓を大きくするが、それを珍味として食べたのがはじまりで、それから延々と受け継がれてきたのである。トリュフをフォア・グラに加えるといった贅沢な食べ方も行われる。トリュフは赤松の下に出るキノコの一種で豚に探させる。豚はその嗅覚でどこに埋まっているかを嗅ぎ当て、それを掘るのだが、この香りが珍重される。
 フランスでも餌の価格の高騰で、フォア・グラの生産をやめる農家が増えている。それに代わってこのところ生産を増やしているのが世界第2位の生産を誇るハンガリーで、経済成長が著しい中国やロシアをターゲットに、ハンガリー議会ではフォア・グラ農家を保護し、財政支援をする法案がつくられた。今年のクリスマスの食卓に変化があるのかどうか見ものである。
by monsieurk | 2011-12-19 00:04 |
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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