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エリック・ヌオフの小説

 不思議なことに、フランスで人気のある現代作家エリック・ヌオフ(Eric Neuhoff)のことは日本ではまったく知られていない。唯一の邦訳は、連れ合いが友人たちと一緒に、フランス語の勉強にと翻訳して自費出版した『かわいいフランス娘(La petite Française)』(1997)だけである。
 ヌオフは1956年に生まれ、南フランスのトゥールーズ大学を卒業したあと、映画評論を中心に、雑誌「マダム・フィガロ」に記事を寄稿するジャーナリストとしてデビューした。その後、小説を書くようになり、現在まで20冊の著書を出版している。
 彼の小説はみずみずしい感性と、子どもときから熱中した映画のように、具体的なイメージを喚起する文体に特徴があり、フランスでは多くの読者に愛読されている。その証拠に、これまで発表した作品は、すべてポケット版(文庫本)に収録されている。ヌオフは 1997年に発表した『かわいいフランス娘』で、重要な文学賞「アンテラリエ賞」を受賞したのをはじめ、『Barbe à papa(サンタクロース)』(1995年)で「ドゥ・マゴ賞」、『Un bien fou(おばかさん)』(2001年)で、2001年度の「アカデミー・フランセーズ小説大賞」を得た。さらに2003年には、アメリカの歌手で俳優のフランク・シナトラの伝記『Histoire de Frank(フランク物語』)』を書いて評判となった。ヌオフはいまやフランスの小説界で確固とした地位を得ている。
 『かわいいフランス娘』は、ベベ(これは渾名で、彼女の本名は最後まで明かされない)が泥棒に入られ、同じアパートの一階上に住む主人公の部屋を訪ねてくるところからはじまる。物語の時間は1980年代に設定され、パリをはじめ実在する場所が舞台として登場し、それが小説を生き生きとしたものにしている。この時代のパリの空気を吸った者にとっては大変なつかしいものである。
映画の愛するヌオフらしく、ゴダール監督の映画『軽蔑』が重要な狂言回しとして使われていて、女主人公がベベと呼ばれるのも、映画の主役を演じたブリジット・バルドーにちなんだものである。そしてこの小説に限らずヌオフの作品には、今日の生きたフランス語で書かれていて、辞書を引いても分からない表現や固有名詞が出て来るので、古典を読むのとはちがった難しさがある。
 『かわいいフランス娘』は、中年にそろそろ足がかかりつつある主人公と、若く、魅力的で、謎につつまれてもいる娘との恋物語で、せつない結末が待っているのだが、それには触れないことにしよう。この作品に限らず、エリック・ヌオフの作品の出版に関心を示すところはないだろうか。
by monsieurk | 2012-10-30 07:30 |
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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