フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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詩画集Quelques poemes(続)

 小牧近江(近江谷木駉)の最初の著書である詩画集『Quelques poèmes』は滅多に眼にすることの出来ない稀覯本なので、掲載されている12篇のフランス語の原詩と翻訳を紹介する。詩篇を飾る藤田嗣治の挿画については、著作権があり、すべてを複製することができない。冒頭の数字は詩と線画が載っているページを示す。

1 à mon triste cœeur / des soirs / qui s’en sont allés / loin…/ loin…
 私の悲しい心に / 夜々が/ 過ぎ去っていった / 遠く…/ 遠く…
 (藤田の挿画、手の甲に顎をのせた物憂げな女の横顔)

2 pou vous Madame / je n’ai pas de voix / ma téte repose / lourde/ sur vos seins /
Voici mes larmes…
 夫人よ あなたのために /私は 声もなく / 頭を / ずっしりと / あなたの胸にあずける / ほら 私の涙が…
 (牡丹の花)

3 en baisant / mes yeux mouillés / vous avez bu / tout mon sang / vous oublierez /
est-ce possible ?
 涙で濡れた私の瞼に / くちづけしながら / 貴女は私の血をみな / 飲みほした /
貴女がそれを忘れてしまうなんて / そんなことはあり得ようか ?
 (赤子を膝に抱き、指でつまんだサクランボであやす母)

4 ce petit sculpteur / s’amuse à pétrir / la tête d’argile / laissez faire l’enfant /
la dame clôt ses yeux / ce n’est pas / une tête morte / elle sourit
 この小さな彫刻家は / 粘土細工の頭を / 作って楽しんでいる / 子どもの好きにさせて置きなさい / 夫人は眼を閉じて / その頭は死んではいないと / 微笑む
 (左手の蝋燭にマッチで火をつける右手)

5 il pleut / il pleut / je voulais lire / à haute voix / il pleut / il pleut / j’aime mieux /
sentir / l’odeur du livre
 雨が降る降る / 雨が降る / 大きな声で / 読み上げたい / 雨が降る降る/ 雨が降る /
書物の匂いを / もっと感じたい
 (羽をやすめる四羽の頭の黒い鳥)

6 c’est vous / mademoiselle? / vous bercez ma tête / un peu / c’était la fraicheur du matin / discrète / elle glissait / dans la chambre
 貴女ですか / お嬢さん?/ 軽く / 私の頭を揺すってくれたのは / それは朝のひそかな冷気が / 部屋に / 忍びこんできたのだ
 (首をさげる馬)

7 elle / a fermé / le piano / le thé refroidit / dans le salon / personne / et la fleur
tombe / en silence
 彼女は / ピアノを / 閉じた / 誰もいない / サロンでは / 紅茶が冷め / 音もなく / 花が散る
 (蝶を追う裸の子)

8 le piano / entraîne / mon cœur / ne me faites pas / pleurer ainsi / dans cette chambre / sans lumière
  ピアノが / 私の心を / かきたてる / 私をこんなに / 泣かさないでくれ / 光のない / この部屋で
 (和傘を右手でかかげつつ綱渡りをする女)

9 et / j’ai laissé / couler / les pleurs / dans le soir / noir / personne ne me voyait /
dans le soir / noir
 そして / 私は / 涙を / 流しつづけた / 夜の / 闇のなかで / 誰も私を見ていなかった / 夜の /
闇のなかで
 (雪の上のつがいの鴨)

10 elle l’aime / j’ai été aimé / une fois / aussi / je me souviens / alors / mon chagrin
est infini
 彼女は / 彼を愛している / そして / 一度は / 私も愛されていたのを / 思い出す/
だから / 私の悲しみは果てしない
 (組んだ両手に顎をのせ、じっと前を見つめる女の顔)

11 elle m’a fait la grâce / de sourire / j’ai baissé / les yeux / le ciel était couvert /
mon cœeur aussi / comme toujours / le drapeau flottait / sur toit / du ministère
 彼女はやさしく / 私に微笑んでくれた / 私は / 俯いた / 空は雲におおわれ/
私の心も同じだった / いつものように / 役所の / 屋上では / 旗がなびいていた
 (母牛と乳を飲もうとしている子牛)

12 jusqu’à la rivière / l’allée descend / voici / tout en fleurs / les pêchers / le vent glisse / la voile / toute blanche / est / la voile
 川まで / 小道はくだっている / 満開の / 桃の / 花 / 風はそよぎ / 真っ白な / 帆 /それは / ヨットの帆
 (地面の果物に頭を押しつけている羊)

 奥付は以下の通りである。
Achevé / de composer / et d’imprimer / pour la première fois / le quinzième jour de Novembre mcmxix / sur les presses de / FRANÇOIS BERNOUARD / imprimeur-librairie / 71, Rue des Saints-Pères, 71 / (Fleurus: 18-13) / A PARIS.
 これによれば初版の版組と印刷は1919年11月15日に終る、パリ6区と7区の境にあるサン=ペール通り71番地にあったフランソワ・ベルヌアールの店から刊行された。210部限定で、うち5部は和紙に印刷された。
 誌画集『Quelques poèmes』は、東京渋谷の松涛美術館で開かれた展覧会「藤田嗣治と愛書都市パリ~花ひらいた挿画本の世紀~」(2012年7月31日から9月9日)で展示され、その後9月15日から11月11日まで、北海道立近代美術館でも開催されている。展覧会の図録には、詩画集の表紙と7ページ分が複製されている。 またこの詩画集についての最初の研究は、林洋子「藤田嗣治の1910年代:詩集Quelques poèms(1919)をめぐって」(東京都現代美術館紀要第5号、pp.7-14)で、ここでは全ページが複製されている。
秋田在住の小牧近江の研究者が、最近オリジナル本を新潟の古書店から入手したとのことである。売価は248,000円だったという。
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by monsieurk | 2012-11-01 08:00 | 芸術 | Trackback | Comments(0)