フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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ロバート・キャパ(2)

 キャパの「崩れ落ちる兵士」は、フランスの雑誌「ヴュ」に載ったあと、購読者100万を誇る写真週刊誌「ライフ」が1937年7月12日号に掲載して、報道写真史上もっとも有名な一枚となった。スペイン共和国を守ろうとして叛乱軍の凶弾に倒れた兵士の死の一瞬は、スペインのその後の運命を象徴する作品として世界中に流布されたのである。
 ところが1975年になって、イギリス人ジャーナリスト、フィリップ・ナイトリーが、この写真はプロパガンダで、実際に兵士が撃たれた瞬間を撮ったものではないのではないかと疑義を呈した。だがこの疑問も、1996年に解消したかに思えた。崩れ落ちる兵士の身元が確認されたのである。
 この事実を見つけたのはスペインの郷土史家マリオ・ブロトンス・ホルダで、その調査によると、兵士はスペイン東南部の都市アリカンテに近いアルコイ出身のフェデリコ・ボレル(母方の姓はガルシア)で、当時24歳の青年だった。共和国軍の民兵となる前は製粉所で働いていたが、スペイン内戦が勃発して7週目の1936年9月5日、コルドバに近いセロ・ムリアーノの前線で戦死したことが判明した。
 マリオ・ブロトンス・ホルダもアルコイ出身で、自らも十代のとき前線で戦った経験があった。彼はマドリッドとサラマンカの軍事資料館で調査を行い、この日セロ・ムリアーノの戦線で負傷した者は大勢いたが、死んだのはただ一人フェデリコ・ボレルだけだった事実をつきとめたのである。
 フェデリコには、同じく兵士だったエヴェリストという弟がいた。この発見を受けて、イギリス人ジャーナリストのリタ・グロヴナーは、「オブザーバー」紙のために、エヴァリストの未亡人マリアにインタビューを行った。
 同紙の記事によれば、マリアは、「エヴァリストからフェデリコは戦死したと聞きました。夫は別の陣地にいたので、何が起こったか見ていません。でも、フェデリコが頭を撃たれ、とたんに両手を高くあげたまま地面に崩れ落ちるさまが見えたと、仲間から告げられたのです。即死だったという話です」と語っている。しかしインタビューでのマリアの話(エヴァリストが生前に語っていたこと)には、世界的に有名になったキャパの写真の影響がなかっただろうか。
 いずれにせよ、雑誌「ヴュ」によってスペインに送り込まれた1936年8月から、写真が雑誌の第445号(9月23日発行)に掲載されるまでの間に(おそらく9月初め)、キャパ(アンドレ・フリードマン)とゲルダ・タローは、スペインの戦線であの写真を撮ったのである。
d0238372_033367.jpg ゲルダは本名をゲルタ・ポホリといい、1910年、ドイツ・シュトゥットガルトのユダヤ系ポーランド人の中流家庭に生まれた。一家は1929年にライプツィヒに移り、二人の兄弟が反ナチス組織に加わり、百貨店の屋上から反ヒトラーのビラを撒いた。二人はすぐに地下にもぐったが、ゲルダはナチス突撃隊による一斉摘発で逮捕された。その後保護観察処分となって釈放されると、すぐに祖国を離れる決断をして1933年秋にパリにやってきた。
 パリに亡命した彼女は、1934年にハンガリー出身のユダヤ系で個性的な写真家アンドレ・フリーマンと出会って恋におちるとともに、彼から撮影技術を教えられた。そして最初はマリア・アイズナーが経営する「アライアンス・フォト」の写真編集者をしていたが、彼女のアイディアで二人は、「ロバート・キャパ」というアメリカ風の名前で、自分たちの写真を売り込むことを思いついた。写真の市場はヨーロッパよりもアメリカの方がずっと大きかったからである。
 こうして彼らの写真が注目されるようになると、やがてフリードマンが「キャパ」となり、彼女の方も、「写真家ゲルダ・タロー」という名前を使うようになり、二人はコンビでスペイン内戦の取材に送り込まれたのだった。
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 彼らは取材対象を求めてスペイン内戦の前線をめぐるうち、コルドバに近いセロ・ムリアーノの丘で、共和派の民兵フェデリコ・ボレルの死に遭遇し、「崩れ落ちる兵士」を撮影したと信じられてきた。だがこれもまた事実ではなかったのである。(続)
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by monsieurk | 2013-02-19 20:27 | 芸術 | Trackback | Comments(0)