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大分大学の貴重な文献目録

d0238372_21493492.jpg 大分大学経済学部の貴重な文献目録を見る機会があった。同学部が所蔵する第二次大戦終戦以前に収集された文献を網羅した目録である。
 国立大学法人大分大学の経済学部の前身は、日本で8番目の官立高等商業学校として、1922年(大正11)に開校した大分高等商業学校である。高等商業学校は、戦後の学制改革が行われるまで存在した旧制の専門学校で、商業・商学に関する高等教育機関であり、主に商業に従事する実務家を養成する機関として日本各地に設立された。
 最初に開学したのは東京高等商業学校で、1887年(明治20)、次いで1902年(明治35)に神戸高等商業学校がつくられた。それぞれ一橋大学と神戸大学経済学部の前身で、この二校は修業期間が予科一年、本科三年の四年制で、他は三年制であった。
 1910年(明治30)代になると、日本はアジアをはじめとする海外市場へ商品の販路を拡大することが急務となり、また人口増加から海外への移民も盛んに行われるようになって、商業活動に明るく、海外事情に通じた人材の養成が求められた。こうして各地に高等商業学校(高商)の設立があいついだ。大分高等商業学校もその一つだった。1929年には、山口、長崎、横浜の三校に、中国・南洋・南米との貿易に従事する者を養成するための特別課程が設けられている。同時に各高商にも調査課や調査部がおかれて、研究活動の拠点として役割をはたすようになった。
 大分高商でも、1927年(昭和2)には、研究課が商事調査部に改組・拡充されて、資料蒐集に一段と力が注がれるようになった。さらに1929年(昭和4)には、時局を反映して移植民研究室が開設されて移民関係の資料の収集が行われ、1940年(昭和15)に本科第二部として、東亜科が新設されると、資料蒐集の重点は、国内からアジア全域へと広がった。大分大学経済学部教育研究支援室(旧経済研究所)が所蔵する「戦前期文献目録」をみると、こうした高等商業学校の歩みや当時の研究活動の様子がよく分かる。
 文献目録編集委員であった畠山秀樹氏(当時、大分大学助教授)は、大分大学経済研究所の「研究所報」第20号(1986年3月)に載せた『大分大学経済研究所所蔵戦前期文献目録』で、次のように述べている。
 「資料は当然ながら、大分高商の歴史を色濃く反映しているのであるが、要点をまとめれば次のような特色がある。
 まず第1に、時期的には1921年(大正10)以降、戦前期に刊行された各種の文献、なかでも経済関係の調査報告や統計書を中心に蒐集されていることである。時期的限定を強く受けるのは、いうでもなく蒐集活動が大分高商の創立とともに開始されたためである。蒐集期はおよそ20年と短いとはいえ、現在では入手困難となった貴重な資料が多数所蔵されていという点で、きわめて重要なものである。
 第2に、蒐集の範囲であるが(中略)、世界各国に及んでいることが知られよう。そして、(中略)経済関係の全分野を包括的に蒐集していたことも明らかである。
 ところで第3に、(中略)資料の点数として、「一般及日本」を除けば、満州・関東州、朝鮮、支那、台湾などの東アジア関係の点数がいずれも1,000点を越えて地理的特色を有している。時代的関心を示すものといえよう。
 第4に、経済研究所(研究課、商事調査部、移植民研究室を含む)では原則的に寄贈資料の蒐集にあたっていたため、資料は機関の調査報告を中心としており、そのため、当時の経済・労働・社会問題を集中的に所蔵していることである。また、財閥など、各企業の案内書も含まれており、興味深いものがある。」
 簡にして要を得た紹介だが、この説明に添えられた分類表(地域別)を見ると、一番多いのは「一般及日本」の16,877点で、次いで、満州・関東州の2,266、朝鮮1,581、支那1,447などが上位にあり、南洋一般、東インドシナ、仏領インドシナなどと続いている。さらにはドイツの236点、アメリカ合衆国の217点、イギリス185点、そしてブラジルの160点が目立つ。ドイツは同盟国としての関心、アメリカ、イギリスは敵対国であり、ブラジルは日本にとって早くから移民を送り出してきた国であった。
 文献目録は、Ⅰ. 旧植民地・海外諸国編、Ⅱ. 本邦編、Ⅲ.雑誌編、欧文資料および捕遺の四冊に分かれていて、すぐに参照したのが最近ブログでも取り上げた戦時中に日本と関係の深かった仏領インドシナに関する文献であった。そこには「17.仏領インドシナ」の項目があり、全部で93の文献のタイトルが掲載されていて、すぐにも参照したい資料が多数みつかった。例えば、
 6.仏領印度支那国調査 第一巻 仏領印度支那統治要覧、昭和4年
21.南洋叢書 第二巻、仏領印度支那篇、昭和12年
28.仏領印度支那ノ司法組織並ニ東京・安南民法ノ概要、翻訳、昭和15年
48.仏領印度支那の農業経済、翻訳、昭和16年
42.から48.までの、台湾拓殖東京支店が出版した資料
69.仏領印度支那資源図、一枚、昭和17年
77.から84.までの、京大経済学部内東亜経済研究所制作の一連の文献
 などである。
 この文献目録は、戦前期の日本経済や、旧植民地や諸外国と日本との関係に関心をもつ者にとってきわめて有用である。文献目録は1989年(昭和64年)に完成し、各巻とも650部が印刷されて、そのうち凡そ300部が旧帝国大学や旧高商系の11大学を含む全国の大学の研究施設、官公庁や地元の報道機関、さらに個人の希望者に配付されたとのことである。
 その後これらの文献は、Ⅱ.本邦篇と欧文資料を除くほぼすべてがCiNii Booksに所蔵登録され、大分大学学術情報リポジトリには本文の一部が公開されている。ただ願わくば、この貴重な文献目録そのものが電子化されれば、地域研究を志すものなど多くの利用者にとって役立つにちがいない。
 なお文献資料そのものは大分大学経済学部教育研支援室に所蔵されており、劣化が激しい場合を除いて、希望すれば閲覧可能とのことである。
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by monsieurk | 2013-09-05 22:20 | | Trackback | Comments(0)
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