フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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浄瑠璃の美しさ

d0238372_1949214.jpg 帰国する機内で映画「最後の忠臣蔵」を観た。池宮彰一郎の小説を映画化したもので、2010年に公開されたが、これまで観る機会がなかった。監督は杉田成道。役所広司、佐藤浩一主演で、討ち入り前夜に逃亡し、卑怯者とされた瀬尾孫左衛門が、じつは大石内蔵助に頼まれて、大石の隠し子、可音(かね)を守るために身を隠したのが真相だったというストーリーである。映画それ自体も面白かったが、映画の中に挿入される文楽『曽根崎心中』の語りの美しさにうたれた。イヤホーンで聴き入るうちに、飛行機の爆音もまったく気にならなくなるほど惹きこまれた。
 映画では、芝居小屋で演じられている人形浄瑠璃『曽根崎心中』を、16歳になった可音が観に行き、その可憐な美しさを豪商茶屋四郎次郎の息子が見初めたことから話しが展開する。そして場面の随所に挿入されるお初・徳兵衛の道行が、いつしか歳の離れた孫左衛門を慕うようになった可音の心情を伝える役をはたしている。
 「この世の名残り 世も名残り 死に行く身をたとふれば あだしが原の道の霜 一足ずつに消えて行く夢の夢こそ あわれなれ・・・」と語る豊竹咲太夫の語り口は明瞭で独特の艶があり、太棹三味線の旋律と絡みあって譬えようもなく美しく聴こえた。
 じつはこれには布石があって、パリ日本文化会館の審議会が終わったあと、出席者一同は駐仏日本大使公邸で、鈴木庸一大使から和食の晩餐をご馳走になったのだが、その席で審議委員の一人から、歌舞伎や文楽の現状を聴かされたのである。彼は10歳のとき父親に連れられて歌舞伎を見に行き、以来歌舞伎や文楽を観つづけてきた人である。
 話しは今年9月から10月にかけて、マドリッド、ローマ、パリで公演された文楽に及んだ。現代美術の杉本博司氏が構成・演出し、桐竹勘十郎らが出演した『曽根崎心中』はヨーロッパの人びとに狂的に迎えられたという。それに比べて日本での文楽人気には翳りが見え、知事が助成金を出さないなどの問題が尾をひいて、大阪の文楽座は空席がある状態だという。「杉本文楽」の海外での成功が、文楽を救うことになるかもしれないというのが同氏の見立てであった。そんな話を聞いたあとの『曽根崎心中』はよけい心に沁みた。
 1931年(昭和6)、アンドレ・マルローは妻のクララと連れ立って、近東、ペルシャ、インド、蒙古、中国を経て、10月7日に日本に着いた。マルローこのとき上海から神戸に来る長安丸の船中で、たまたま耳にしたレコードにすっかり魅せられた。それが浄瑠璃だった。京都、奈良を旅行したあと滞在した東京で、同行した小松清とともにそのレコードを探しまわったという。小松が紹介している逸話だが(「人間マルロオ」、『アンドレ・マルロー』所収、新樹社、1949年)、これが単なるマルローの異国趣味(エキゾシズム)でなかったことが今回の体験でよく分かった。
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by monsieurk | 2013-12-15 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)