人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ムッシュKの日々の便り

monsieurk.exblog.jp ブログトップ

ラ・ボエシの「自発的隷従論」Ⅱ

 ラ・ボエシからモンテーニュに託された遺稿には『自発的隷従論』の草稿もあった。モンテーニュは「友情について」で、こう書いている。ラ・ボエシの「自発的隷従論」Ⅱ_d0238372_14475765.jpg「 それは彼が、「自発的隷従」と名づけた論文であるが、それを知らぬ人たちがあとで「反体制論」とたいへん上手に名前をつけ変えた。これは彼がきわめて若い頃に、習作のつもりで、圧政者に対する自由を讃えて書いたものである。」ラ・ボエシの「自発的隷従論」Ⅱ_d0238372_1448198.jpg
 モンテーニュは友人のこの著作を一度は公表することを考えたが、それを思いとどまった。「わたしは、この著作が、国家の社会的秩序を改良するどころか、それを変え、混乱させようとする人たちによって、自分たちで勝手に作り上げた書き物と一緒に――悪い目的のために――刊行されたのを見たので、それをここ〔『エセー』〕に入れることを断念した。」「自発的隷従」は1574年に一部が雑誌に掲載され、1576年にはその全文がMémoires de l'état de France sous Charles neuvième に載り、新教徒の手で書かれたヴァロア王朝攻撃の文書と一緒にされて利用された。モンテーニュはこうした事態をラ・ボエシの真意ではないと考えたのである。
 ラ・ボエシは自らの目的を次のようにのべている。
 「ここで私は、これほど多くの人、村、町、そして国が、しばしばただひとりの圧政者を耐え忍ぶなどということがありうるのはどのようなわけか、ということを理解したいだけである。その者の力は人々がみずから与えている力にほかならないのであり、その者が人々を害することができるのは、みながそれを好んでいるからにほかならない。」(山上浩嗣訳)
 ラ・ボエシによれば、「われわれは生まれながらにして自由を保持しているばかりであり、自由を保護する情熱をももっているのである。」自由は人間の本性なのである。その人間がなぜ自由を放棄して、自分から隷従することになるのか。それは教育の結果生じる習慣のせいであるという。
 「人間においては、教育と習慣によって身につくあらゆることがらが自然と化すのであって、生来のものといえば、もとのままの本性が命じるわずかなことしかないのだ、と。したがって、自発的隷従の第一の原因は、習慣である。(中略)さきの人々〔生まれながらにして首に軛をつけられている人々〕は、自分たちはずっと隷従してきたし、祖父たちもまたそのように生きてきたと言う。彼らは、自分たちが悪を辛抱するように定められていると考えており、これまでの例によってそのように信じこまされている。こうして彼らは、みずからの手で、長い時間かけて、自分たちに暴虐をはたらく者の支配を基礎づけているのだ。」
 こうして人びとは人間の本性であるはずの自由を棄てて、一人の者の言いなりになる。それどころか、ピラミッド型の隷従のメカニズムを進んで担うようになる。こうした事態はラ・ボエシの生きた16世紀だけでなく、21世紀のいまにも当てはまる。それも独裁者が支配する世界だけでなく、多様な意見が許容されているように見える私たちの世界でも行われている。だがラ・ボエシは事態を打ち破るのは難しくないという。
 「このただひとりの圧政者には、立ち向かう必要はなく、うち負かす必要もない。国民が隷従に合意しないかぎり、その者はみずから破滅するのだ。なにかを奪う必要などない、ただなにかを与えなければよい。国民が自分たちのためになにかをなすという手間も不要だ。ただ自分のためにならないことをしないだけでよいのだ。(中略)彼らは隷従をやめるだけで解放されるはずだ。みずから隷従し喉を抉らせているのも、隷従か自由かを選択する権利をもちながら、自由を放棄してあえて軛につながれているのも、みずからの悲惨な境遇を受けいれるどころか、進んでそれを求めているのも、みな民衆自身なのである。」
 わたしたちは心して耳を傾ける必要がある。 
ラ・ボエシの『自発的隷従論』は、モンテーニュの専門家、関根秀雄(『奴隷根性について』、白水社、1983年)と荒木昭太郎(『自発的隷従を排す』、「世界文學体系」第74巻、筑摩書房、1964年)によっても翻訳されている。
 フランス語の原文は、Ētienne de La Boétie: Discours de la Servitude volontaire( Vrin, 2002)他の版がある。またフランス国立図書館に所蔵されている写本、Manuscrit De Mesmes, conservé à la Bibliothèque Nationale de France. Fonds français 839.は http://gallica.bnf.frで見ることができる。またフランス語原文は、Kindleを用いれば99円で購入して読むことができる。
by monsieurk | 2014-03-03 22:30 | フランス(文化)
line

フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31