マラルメの肖像Ⅹ「ドガの写真」
大きな鏡の前で写るのはマラルメと画家ルノアールで、鏡のなかにはカメラを構えるドガと、マラルメの妻マリーと娘のジュヌヴィエーヴがぼっとではあるが写っている。この日はベルト・モリゾの娘ジュリーと従姉妹のポールとジャニー・ゴビヤール姉妹、それに彼女たちの後見役だった、マラルメの一家、ルノアール、ドガが集まっていた。
この写真を焼き付けた1枚を持っていたヴァレリーは、台紙に次のような覚書を書いている。「大きな鏡の脇に、壁に寄りかかるマラルメと、椅子に腰かけて正面を向くルノアールを見ることができる。鏡のなかには、ぼっとした状態だが、ドガとカメラ、マラルメ夫人とマラルメ嬢が見える。9つの石油ランプと、15分間動かずにじっと同じ姿勢を保つことが、この傑作を生み出すのに必要な条件だった。これがわたしが持っている一番美しいマラルメの肖像である。・・・」
ドガは晩年目を患い視力が落ちたが、1895年から96年にかけて写真に熱中し、周囲の人たちの肖像や自画像を撮影した。彼はモデルに思い通りのポーズを命じ、光と影のコントラストをつくり出すように光源のランプを配置した。そうして絵画のような写真を撮ることに成功したのである。そのなかでもこの一枚はドガの傑作とされる。
なおこの日、マラルメとポール・ゴビヤイールの二人の写真も撮っている。背景として写っているのはマネの《庭の若い娘》である。
マラルメは1874年に発表した評論「印象派の画家たちとエドゥアール・マネ」で、ドガの名前をあげて賞賛し、それ以来詩人と画家は友情を結んだ。彼らはベルト・モリゾの死後、1896年3月には協力して、彼女の回顧展をデュラン=リュエル画廊で開催し、マラルメはそのカタログに序文を書いた。