秋の味覚2題
日本でのボジョレ・ヌヴォー騒ぎは下火になったようだが、フランスでも年に一度新酒の出来を楽しむ習慣はすっかり定着して、酒屋の店先は賑わっていた。ボジョレ・ヌヴォーの浸透作戦を誰が考えたのか不明だが、プロモーションが大成功だったことは間違いない。
昨年の今頃のブログ(「お昼の食卓」2013.11.25)にも書いたが、トゥールーズ近郊のガイヤック地方のワインにも、新酒を飲む習慣があり、一週間後には解禁になる。だが地元は別にして世界中の人たちが待ち望むといったことはない。ボジョレを横目に見て歯ぎしりしているのが現状である。
今週の土曜日(22日)は、国境をこえてスペインのアラン渓谷(Valle de Arán)にある小さな街ボソス(Bossóst)へお昼を食べに行った。
トゥールーズからは高速道路A64を南西に下り、サンゴダンスの先で降りて、ガロンヌ川の源流へ向かう川沿いの道をピレネー山脈の山懐へと入って行く。トゥ-ルーズ市内を流れるガロンヌは川幅120メートルに達する大河だが、この辺りまで来ると川幅は10メートルほどで急流が白波をたてている。スペインとの国境は税関もなく素通りして、やがて川沿いの街ボソスに着いた。トゥールーズを発って2時間ほどの距離である。この一帯もカタルーニャに属するが、渓一帯に住む人たちはカタラン(カタルーニャ語)ではなオクシタン(オック語)を話す。
目指すレストランはER OCCITAN。40代の夫婦がやっている店で、創作料理と手ごろな値段が評判で、休日はなかなか予約が取れないという。総勢8人の私たちには奥のテーブルが用意されていた。
注文した料理はまちまちだったが、私が食べたのは――
アミューズ2種類:魚のパテと、魚肉のソーセージをキャベツとピーマンの濃厚な温スープに入れたもの。
アントレ:ラテン・アメリカ名物の"Ceveche" (シヴェッチ)。地元で獲れたマスの生を1センチ角に切ったもの、マスの卵、アボドカド、その他の野菜を、生クリームを主体にしたソースで和えたもの。
メインディッシュ:ルジェ(金目鯛の一種)をチーズとともにソテーしたものの鶉の茹で卵ぞえ。
デザート:ババ・オ・ウイスキー(普通はラム酒を使うのをウイスキーにしたババロア)
パンはバターではなく、濃厚なオリーブオイルをつけて食べる。
ワインは、白が"Silencis”、2013年。ドメーヌ名は Raventós i Blancとカタルーニャ語で書かれており、バルセロナの近くで、1497年からワインをつくっているという。
赤はRioja産(リオハ、マドリードの北に広がるスペイン最大のブドウ産地)の "LAN a mano"、2010年。"LAN”は最近日本でも手に入るが、これは"a mano" つまり手で揉んでつくったもので珍しいという。
そして最後のしめには、全員にパンとオリーブオイルをミキサーにかけたスープに、チョコレートの小さな玉を浮かせたものが供された。この地方では、子どもたちがお腹をすかせて学校から帰ってくると、パンにオリーブオイルを塗って食べさせたことから思いついたという。
ワインを除き全部で31ユーロ。値段といい味といい最高に満足だった。ただし残念ながら料理の写真は撮影禁止。最近はインターネットにすぐ投稿され、それが食欲をそそるものでない場合が多く、店にはかえってダメージになるとのことだった。