ムッシュKの日々の便り

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男と女――第六部(6)

 詩集の最初に置かれた詩篇「Le CŒUR EN COKE」のフランス語原文を引用してみる。

Mais! tu ne reviens plus.
La pluie du parc
Est claire comme la moisissure verte.

Le courant d'air, la glace de Sibérie
T'éloignent de moi.
Je saisis ton col comme l'aigle,
Ta tête tombe comme une marionnette.
Je pose mes cheveux contre ton épaule, puis

Mai tu ne reviens plus.
・・・・・・

Comme les asperges du marché en plein saison,
Ma sensualité, d'abord précieuse, devient banale.

Mais, quand le soleil s'écoule sur le mur
Blanc, comme du mercure,
Je me souviens de ton sourire aigu
Dont la pointe pique mon cœur,
Mon cœur expose comme une bombe,

Puis, devenant du coke noir・・・
Mon cœur noirci trébuche
Sur le pavé, sous les arbres.
・・・・・・・

Ce soir
Le revolver
Comme une souris dans ma poche
Est tour à tour froid et chaud.
Il est calme
Je renonce à mon suicide
Et j'écoute la cloce de Notre-Dame.

Travail !
Un enfiant qui désire voir un spectacle populaire
Cherche à regarder entre les jambes du public,
Essaie de grimper sur des épaules,
Sans parvenir à voir;
Ainsi je suis empêchée par la foule.

Pays natal !
On ne m'a chassé de nulle part,
Je ne subis pas l'exil de la Sibérie !
Sous le ciel d'œillet de la nuit de Paris,
Je marche pensant à mon retour,
J'ai mangé trop de gâteaux du pays étranger.

Je retournerai bientôt,
Devant moi, tu passeras comme un
Habitant de Mars.

Je fixerai tes prunelles glaciales,
Je deviendrai une vraie excilée・・・
C'est un excil d'amour.

S'il faut que tu insultes l'esprit,
Si tu ne peut marcher que dans un chemin
De matérialisme, Ce fut ma grande faute :
J'ai toujours aimé un homme mécanique.

            Paris.

 如何には、これに対応する『東方の詩』所収のテクストを掲げる。ただフランス語の詩句と異同のある箇所は〔〕で補う。

コークスになった心臓

五月!
おまへは来ない。
公園が青黴のやうに明るい雨だ。

気流と大シベリヤの氷塊が、
おまへをわたしから距てゝゐる。
――おまへの背広の襟を鷲のやうにつかんでゐる。テアトロ デイ ピコリの〔この部分フランス語になし〕操り人形のやうに、おまへの首が落ちる。
おまへの肩へ髪をつけて、それで、
なんにもいらない。〔なんにもいらない。〕
だがおまへは来ない。
・・・・・・

市場のアスパラガスのやうに、
〔はじめは貴重だった〕あたしのすべての感覚は平凡になったゆく。

それでも白壁へ水銀のやうな陽が流れると、
おまへの鋭角の頬笑みを思い出す。
おまへは、その鋭角で、
よくあたしの心臓を突き刺した。
あたしの心臓は、
爆裂弾になつて、大音響立てて爆破した。
それからコークスのやうに黒くかたまつて・・・
敷石道を、並木道を、黒い心臓がつまづきながら行く。
・・・・・・・

ピストルの手ざわりは
今夜
冷たく 熱い。

廿日鼠のやうに、あたしのポケットの中で、
息をひそめてゐる。
死ぬのを止めて
ノートルダムの鐘を聞く。

働かう。
でも見世物を見る子供のやうに、
股の間から、肩の隙間から覗きこまうとしても、〔肩によじ上ろうとしても〕
ぎっしりつまつてゐいて、あたしを入れてくれない。〔何も見えない。群衆に邪魔さらるのだ〕

故国!
誰もあたしを逐ひ出しはしなかった。
〔シベリアへの流刑は堪えられない!〕
その下を(帰る)ことを考えて歩いてゆく・・・
あたしは他国のお菓子を食べすぎたやうだ。
いつか、故国へあたしも帰る時が来るだらう。
おまへは火星から来た人のやうに、
あたしの前を通り過ぎるだらう。
フン!〔この箇所フランス語になし〕
その氷河の眸を噛む。〔おまえの氷のような眸をじっと見よう〕
その時、あたしはほんとう流謫の囚人となるだらう。

愛情の流謫!!

若し、おまへの仕事のために、
殉情を無視しなかればならぬならば〔もし精神を侮辱しなければならぬのなら〕、
若し、おまへの靴が、理論と鉄の塹壕〔が唯物主義の道を〕しか行けないならば、
それは大きな仕損じだつた。
――あたしは人造人間を恋したのだ――。
                        
               パリ

 この「コークスになつた心臓」は前にも触れたように、金子の『どくろ杯』によると、別れてきた土方定一との恋愛がうたわれていて、上海滞在中すでに書き上げられていたが、上海で上梓した『ムイシュキン侯爵と雀』には収録されなかった。
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by monsieurk | 2016-09-22 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)
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