ムッシュKの日々の便り

monsieurk.exblog.jp ブログトップ

男と女――第七部(2)

 そして「中央公論」六月号には、二篇の詩、「洪水」と「落下傘」が掲載された。「洪水」では、北支での見聞が次のようにうたわれている。

 洪水
    
      一

まるで古新聞みたいだな。
よごれた氷ども。

まるで皮膚病みたいだな。

碼頭ロックを咬み、
みぢんにひゞいり、
しづかにまた、張りつめる。

大運河を越えて
渤海まで、みわたすかぎりの洪水が石になつたのだ!

飢ときびしい沈黙がのしかかつたのだ!

ねむたい眼をあげて、
どこまでつゞくのだ
氷原よ。

石鹸(じゃぼん)よ。
にほふ水平線よ。

うつくしい屍(しがい)のうへを
蛾が孵つて
さまよふ月よ。

      二

 父よ。母よ。子よ。祖父母よ。いま、かれらをおし
流した雲のやうにおほきな濁水は、
 水の肋骨のしたに封じられたのだ!

 畝や、塚の土まんぢう、家竈、井戸や、石臼などは、
くらい水の底にじつとしづんでゐるのだ!
 だが、氷のしたには、なんの物音もない。

 氷のうへにも、なんの物音もない。

河北を一枚で蔽ふ氷盤の、なんといふこの静謐さだ。

 地をびしびしと縛り、天に楔(くさび)うつ、音なき銃聲にも
似た
 なんといふきびしい經律なのだ。

光はまだか。
五千年の秕政の
革る日はちかいか。

虹のやうな凍え。
漂流物。
鳥鼠洞穴。

苦寒にいきのこつた
老人子供が
氷上に孔を穿ち、
あくた火に寄りくる魚くづを
辛抱強く待つてゐる。
[PR]
by monsieurk | 2017-01-13 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://monsieurk.exblog.jp/tb/23767505
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
line

フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31