フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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男と女――第七部(6)

 十二月の「日本学芸新聞」のアンケート「長期戦下の文化国策に直言する」では、「我々としてはただ寛厚を庶幾するほかは仕方がないだろう。文化国策に直言するよりはむしろそれに順応する文化人一般に直言したいことの方が多い。一例がペン部隊の事にしても、当局の意図や人選振を批判するよりも、文壇の元締め根性の方が問題だ。長期戦下で元締めたちとその努力範囲に一任することは文化に関する仕事の限りでは返って冗が多いことになるのではないか」と答えている。
 要するにペン部隊をつくって国に奉仕させようとする内閣情報部への批判を避けつつ、それに迎合する文化人をやり玉にあげるのだが、いかにも隔靴掻痒で、苦しげである。十二月四日には、従軍ペン部隊の第二陣として、長谷川伸、中村武羅夫など九名が南支へ向かった。
 一九三九年(昭和十四年)一月四日、近衛文麿内閣が総辞職して、翌五日には平沼騏一内閣が成立。六日にはドイツのリッペントロップ外相が、日独伊三国同盟を正式に提案した。日本は三国相互の武力援助はソビエト連邦だけを対象とし、その他の国に対しては状況によって対象とするという妥協案をもってこれを受け入れることに決した。
 戦時色が日常生活にもさまざまな影を落すようになったが、金子の創作意欲は衰えなかった。新年には詩篇「章句――ジャン・モレアスに」を「新女苑」一月号に発表したのにはじまり、「天使」(「中央公論」四月号)、「泥濘の歌」(「文芸日本」六月号)、「混血論序詩」(「文芸」六月号)、「ニッパ椰子の唄」(「文学者」十一月号)「八達嶺」(日本学芸新聞」十一月二十五日号)などが主なものである。これらの多くは後に詩集『落下傘』(一九四八年)や『女たちへのエレジー』(一九四九年)に収録されることになる。
 このうちの「天使」は時勢にそぐわないタイトルの詩だが、いったいどんな意図で書かれたのだろうか。まずは詩の一部を紹介する。

 天使

  一

 しゃぼん玉があがるやうに
嬰児(あかんぼう)たちが
そらにうまぶ。

神の煉乳(コンデンス・ミルク)で育つた
薔薇の膚は
風邪をひかなあい
むつきもいらない。

その背には
雉鳩のつばさ。

・・・・・・・

  二
  
 だが、いま、嬰児たちは顔蒼褪め
アビオグラムのなかを遁れまはる。

成層圏まで、父なる主宰者はゐまさず
嬰児たちは孤児となりはてた。
塵や、木の葉や、新聞紙とともに、かれらは
宙に吹きちらされる。

口いつぱい蟹の泡を噴き
うろたへ、
逆さになり、くるくる廻り、
べたべたなキャンディを手に握り、
肉柱のにほふ甘つたるいからだ、
すつぱい林檎。
円光(ニンプ)を背負つた
無心な天使らは
地球にやすらふところがない。

踏んづけるほどおつぱいが押しあつても
天使らを養ふものはゐない。
気球のあがる
屋上のたたきのうへで、
飴いろのにぎやかな一群を
秋空たかく、私は
かなしげに見送る。

あれは邪(よこしま)と
疑をしらぬもの、
えらばれた扈従たちよ。
いずくにゆく。

 昼の月、
浮雲とともに
神の声色、遠雷のつぶやく
くにざかひのそらを天使らは
おそれげもなく
膝で
匍いまはる。
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by monsieurk | 2017-01-25 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)