フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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男と女――第七部(30)

 「シエムレアップの夜(LA NUIT DE SIEMRĒAP)」

今夜は十七番目の名月の夜だ。

いま私はやってきた
アンコール・ワットの遺跡にすぐそばに。
私の視線の彼方では、
月明かりの夜のなか、遺跡の周りが
静かに沈みこんでいくように見える。

遺跡を訪れるのは明日
宝石箱のように、遠い霧のなかの真っ盛りの花々のように
目の前にやがて開かれる未知のものを楽しむのだ。
まだ見たことのない
私の心の秘密に
はじめて出会うかのように。

でも周囲のこの単調さは何だろう?
月は高くのぼりこんなにも小さく見える。

シエムレアップの街の小さな劇場からは
仏陀に似た様子で踊るカンボジア娘たちの
赤に染めた掌と曲げた指とで踊る
音楽は聞こえない。
私を取り囲むのは
虫の声ばかり。

この私が、咲き誇る夢を探すのは
ただ心の廃墟のかなだけ。
あなたに手紙を書くが
この手紙は決してあなたに届きはすまい。

今宵は歎きつつ
いまの私の生きざまを愛しむ
そして、それを誰かに聞いてほしいのだ。

 「アンコール・トム(ANGKOR THOM)」

感覚を失うほどの
長い時のほほえみ!

恋、嫉妬、そして歎きを経めぐり
最後に帰ってくるほほえみ。

破壊のあとでさえ
青空に幻影のごときものを残すそのほほえみ。

巨大で、複雑な世界の終りの
名残の味がするほほえみ。

雷鳴のようなそのほほえみ、
大嵐の瞬間のほほえみ、
永遠の凍りついたかのようなそのほほえみで、
おお、アンコール・トム! お前は私の生をすっかり虜にする。
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by monsieurk | 2017-04-06 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)