ムッシュKの日々の便り

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2012年 06月 12日 ( 1 )

画家ヴュイヤール X 「文の構成法」

 マラルメは、「純潔で、真っ白な心でやってくる人なら、私が基本的に文構成主義者であることがわかるだろう」と、自からを規定したことがある。事実、彼の詩法は構成の意識に支えられていた。「詩の危機」の有名な一節で、人間の言葉は質料的に真実ではなく、一つの語の響きが、何らの必然性をもって意味に対応していないことを嘆いている。
 「不透明なombre(影)という語の傍らでは、ténèbre(闇)の暗さは感じない。jour(昼)とnuit(夜)のそれぞれに、意味とは裏腹に、前者には暗く、後者には明るい音色をあたえている倒錯を前にするのは、なんという失望であろう。輝きをあらわす語は光りを発し、逆の場合は光を消す、という風であってもらいたいという願いは、単純な明暗の交錯が問題である限りはもっともなことだ。」
 詩人は語の意味内容と形態や音の響きの乖離に失望する。しかし彼はすぐに、言語のもつこの欠陥のうちにこそ、詩の存在理由があることを悟るのだ。「だが、もしそうなら詩句は存在しないと知るべきだ。詩句とは、諸国語の欠陥を哲学的にあるいは歴史的に償う、高次の補完物なのである。」
 言語の欠陥とは、一つ一つの単語が、それが指し示す事物それ自体とは無縁である点をさす。それにもかかわらず、言語は事物を表象しようとする。こうした本質的矛盾を解決する手立てはあるのか。乖離を乗り越える方法は存在するのか。その方法こそが詩作の錬金術にほかならないと、マラルメは考えたのであった。
 「私は音楽をつくる。語と語の響きのよい並べ方から引き出されるものを音楽と呼ぶのではなく――この最初の条件は自明のものである――、言葉のある種の配置によって、魔術的につくり出された彼方のものを音楽と呼ぶのである。」
 ある語の感覚的形態と意味との間にはいかなる整合性もなく、「私たちの観念と、観念の一つ一つを喚起せしめる音の群れとの関係」が、まったく任意の、純粋に偶然の所産である以上、言葉の「肉体性(形態や響き)」とそれが示す意味を一致させようとするなら、語を組み合わせることによって、全体として意味と響きの調和をはかるほかに方法はない。こうして、言葉から偶然性を取り除き、その真実を保証するのは、語の配置、つまり「文の構成」如何にかかわることになる。
 「いくつかの単語を、一つのそれ自体で完結するような、まったく新しい、国語のなかにそれまで存在しなかった、呪文を形づくっているような語に作り変える詩句というものが、意味と音響とに交互に加えられた用語の焼入れ直しの技巧にもかかわらず用語に残る偶然性を、至高のひと息によって否定しつつ、言葉のこの孤立をなしとげる。そして〔こうした詩句が〕通常の語法の断片なのに、このような断片はこれまで耳にしたことがないという驚きを人びとにひき起こすのである。同時にそれは、詩句のなかで名指しされた対象のひそかな記憶が、まったく新しい雰囲気のなかにひたっているという驚きである。」
 「詩の危機」の結論であるこの一節に、マラルメの詩法の秘密と詩句への信頼が要約されている。言語の本質的欠陥を補うものこそが詩句であり、詩句の本質を、彼は「文構成法(シンタックス)」と呼んだ。「文構成」とはただ単に、詩句における個々の単語の配列だけではなく、一篇の詩全体における語同士の関係、さらには一冊の詩集を形成するそれぞれの詩篇相互の配列をも意味する。
 こうした広範な「構成」をふくめて、マラルメは詩法の基本を「文構成法(シンタックス)」にあるとした。「・・・一つの保証が必要である――文構成法」なのである。
 マラルメは実作でも新造語や綺語を多用して、読者を驚かせるタイプの詩人では決してなかった。〈i〉や〈y〉の音が頻出する、通常「白鳥の歌」と呼ばれるソネや、先に引用した「純な爪は高々とその縞瑪瑙をかかげ」などはむしろ例外であって、マラルメのソネは韻を追って詩句を重ねるように形成されている。脚韻と詩句中の子音とが織りなす音の唐草模様が、詩の構造を堅牢なものにしている。だからといって、そのために耳慣れない語を捜し求めることはしなかった。彼は新奇な言葉を選択するのではなく、日常的な語の新たな組み合わせから、読む者の感性をゆさぶる方法を用いたのである。実際、マラルメほど普通の言葉をつかって、神秘的な詩を創造した人は稀であった。
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 マラルメが用いた語の一覧については、〈Index des mots des poésies de Stéphane Mallarmé〉を参照のこと。『デマン版マラルメ詩集』に収録された全詩篇について、ある単語が詩句のどの文脈のなかで用いられているかを明らかにしている。
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by monsieurk | 2012-06-12 08:00 | 美術
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