ムッシュKの日々の便り

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2017年 04月 01日 ( 1 )

男と女――第七部(28)

 フランス語で書かれた『インドシナ詩集』には、三千代が旅した仏印各地で見聞した風景や文化風土、そこに生きる人びとの印象を主にうたった詩が、ハノイにはじまり、巡った順に並んでいる。

 「夜の樹々(LES ARBRES DE NUIT)」

ガンベッタ大通りの黄昏に
月が昇る、
オレンジ色の細い月が。

夜の樹々
身をよじらせ
闇の底から塊をなして立ちあがる、
空に祈るために手を合わせながら。

  ――ああ! この夜、
  私たちは眠れずに、苦しんでいる、
  私たちは呻く力も息をはずませる力もない。
  
そして樹々はかすかにざわめき、
やがて静かになる。
ひとりの安南女が両膝を抱えて、
黒い影の足元にいる。

夢もなく歌もなく、
夜霧の底なしの深さのなか、
無意味な眠りに
まどろみながら・・・

 「花々(LES FLEURS)」

幸せな日に
花を買いたくなるように!

少し曇った人生に、
不意に薄日がさす。

花々が萎れてしまうまで、それを撫でていよう。
「小湖」のさざ波のうえで
短い命の光を拾い集めよう。

水を渡る風に吹かれながら
私は黒髪を梳かそう。

 「桃の花(FLEUR DE PÊCHER)」

静かなたたずまいの安南で、
香しい風に運ばれた桃の花が
私の頬をそっと撫ぜた。
そしてすべてが火を燃えた・・・
おまえ!
昼の白い月の下、
静かに燃えるその火の歌に
身を委ねよう。

 「美しい土地(BELLE TERRE)」

私は飛行機でやってきた。
飛行機は富士山をかすめ、
多彩な色の雲のなかに
突込み、通りすぎる。

眼下には壮麗なパノラマが展ける。
突然、私は尺蛾のように落下する、
花粉をまき散らしながら。
ここはインドシナだ!

あなたたちに何をもたらすことができよう?
フランス語も安南語も話せず、
交易の品も面白い話もない私は。
私は、何ももたない蝶だ。

微風のなかには、パゴダ
そして緑の水田。
私は降り立つ、真摯なままの心を抱いて、
それをあなた方に捧げよう。
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by monsieurk | 2017-04-01 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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