フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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2017年 04月 03日 ( 1 )

男と女――第七部(29)

 「旅支度(TENUE DE VOYAGE)」

ああ! もう一度、
トランクに新しいラベルを加え、
私は旅立つ。

ある朝、私は人力車で遠くへ運ばれていった
霧雨に湿ったハノイから、
私を眠らせてくれた
パゴダの伝説よりも甘く悲しい胸から離れて。

ハノイ、
祖国よりも親しい名前、
それは気まぐれな空爆の下で
慌ただしい日々を生きるハノイだった・・・

のどかに流れる紅河の水に
自分の血の一滴を
私は落とした。
そのときからハノイは私と不可分なものとなった。

私がトランクに詰めるのは、
哀しげな竹藪を映す水田の
はるかな縁へ持っていくのは、
服でもなく、ノートでもなく、
化粧品でも、缶詰でもない、
それはプロペラの爆音の下で咲く一輪の花、
私の姿に似た悲しい花だ。

 「星座(LA CONSTELLATION)」

マンゴーの大枝の上の、
長柄を下にした大熊座、
隣には北極星
バルコンの左には南十字星。

今宵はなんという夢見る夜!
なんと深い郷愁に充ちた夜!
白いバルコンの上には、主人と招待客が
夜遅くまでグラスを空にしながら語り合う。

甘美な酒、《コワントロー》のなかに
空が身を傾けている
心地よく、甘やかに、爽やかに
星々が私の舌の上ではじける。

頭上では
星座が知らぬ間に半周していた。
いや、バルコンが一晩中歩きまわったのだ
空の周囲を。

長柄を横にした大熊座、
北極星が天空を
半周して滑りこみ
南十字星は、いまバルコンの右にある。
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by monsieurk | 2017-04-03 22:30 | 芸術 | Trackback | Comments(0)