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ムッシュKの日々の便り

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マラルメの散文詩12「栄光」

栄光


栄光! わたしはそれを知ったのは、つい昨日のことだ、それも否めえない栄光を。人にそのように呼ばれるものは何も、わたしを惹きつけることはないだろう。


〔書かれている〕文字を裏切り、陽光の、真価を認められない金色を自分のものにした無数のポスターが、街外れではどこでもそうだが、鉄路での出発によって地平線すれすれの高さで移動するわたしの目から逃れ去った。それも束の間、わたしの目は、紅葉が真っ盛りの森が近づくにつれて生じるあの不可解な自尊心のなかで思いをこらすのだった。

その時の高揚のなかで、ひどく場違いな一つの叫びが、フォンテーヌブローという、季節の終わりには葉を落とす梢が次々に広がることで知られるあの名詞を告げた。わたしはコンパートメントのガラスをぶち割ったその拳で、この邪魔者の喉元を絞め上げることも考えた。黙れ! いたるところにいる観光客が吐き出され、刺激された平等の風の下で、バタバタと開閉する列車の扉のところでむやみに喚き、いまわたしの精神に滲みこんできた影を暴露しないでくれ。豊かな森の偽りの静けさが、あたりに幻想の異様な状態を宙づりにしているが、きみはどう思う? これらの旅行者たちは今日きみの駅に来るために首都をあとにしたというのがきみの答えかな。きみは職業柄大声で怒鳴らなければならない駅員だが、わたしがきみに期待するのは、自然国家の協同の恩恵により、万人に分かち与えられる陶酔を独り占めにすることではまったくない、都市から繰り出してきた人たちから独り離れて、あそこに見える葉叢、じっと動かないが、一度危機が来れば葉はすぐ空中に散乱するだろうが、あの葉叢の方へ行く間だけ黙ってほしいのだ。きみの廉潔さを侵害するつもりはないが、さあ金だ。取っておきたまえ。


無頓着な制服〔の駅員〕がわたしを改札口の棚の方へと招くので、わたしはなにも言わずに買収するための貨幣の代わりに切符を渡した。


だが、そう、わたしは従ったのだ。アスファルトの道が足跡一つなくずっと伸びているのを見るだけに。というのも、まだわたしには想像できないのだが、首都の途方もなく単調さ、その脅迫観念はここでは汽笛とともに霧に包まれてたちまち消え去るのだが、そこで自分たちの空虚さを積み重ねている百万の人びとの誰ひとり、こっそりと逃れてきて、この類をみない壮麗な十月に、光輝く苦いすすり泣き、葉を落とす枝々のように偶然を放棄する、ぼんやりと浮遊するあまたの観念、こうした慄き、そして大空のもとで秋を思わせる何かが、今年は格別であると感じた者は、わたしを除いていなかったのだ。

 

 誰もいない。目にするには余りに貴重なトロフィー! 秘められた栄光の分け前を運ぶ者のように疑いの腕は飛び去り、だが人間を超えた傲慢さ(その正当性は確認する必要がないか?)で一本ごとに反り返っている不死の大樹たちのこの昼間の通夜のなかへ突き進むこともせず、また、あとは王者たるべき闖入者が来るだけの世界をあげての聖別式を連なる梢の松明が高々と見守り、その輝きに先立つすべての夢を焼き尽くして赤々と雲に映している森の敷居をまたぐこともせず、この闖入者となるべくわたしは待っていたのだ、わたし一人を置き去りにした列車が、ゆっくりと普段の動きを取りもどして、人びとをどこかへ運ぶ子どもじみた怪獣〔キマイラ〕の大きさに縮まること。


# by monsieurk | 2022-08-10 09:00 | マラルメ

マラルメの散文詩11「聖職者」(2)

また、後を振り返りたい誘惑に懸命に抗しつつ、ほとんど悪魔的ともいえる幻想を頭に思い描くしかなかった。その幻影は右に左にと、あばら骨でまたお腹で、陽春の芽吹きを烈しく圧し潰し続け、純潔な熱狂を味わっていた。身体を擦りつけ、あるいは手足を投げ出し、転げまわったり、滑ったり、こうしたすべてが満足感に通じていた。すると今度は動きがとまる。なにか丈の高い花の茎が黒い脹脛〔すね〕のあたりを擽〔くすぐ〕ったのに熱狂したのだ。それは自分にとってのすべてであり、妻でさえあるといった様子でまとっている、あの特殊な長衣のなかでのことである。草木のなかに散乱した孤独、冷たい沈黙を、不安ほど鋭敏ではない感覚でとらえて、服地がたてるがさがさという音が聞えて来たわけである。それはまるで服の襞に隠されている闇夜が揺さぶられて、ついに現れ出たかのようだった! そして若さを取りもどした骸骨が地面にぶつかる鈍い音。だが熱狂している男は、他人に目を向ける必要などなかったのである。嬉々として、芝生を前に、羽目を外したのは神学生時代に逆戻りしたのだというのでは説明にならず、自分自身のなかに一つの快楽、あるいは一つの義務の源を求めることで十分だったのだ。春の息吹の影響が、彼の肉体のなかに書き込まれた不変のテクストをゆっくりと膨らませていき、彼もまた、自分の不毛な思考にとって心地よいこの動揺で大胆になって、自然との知的好奇心のまったくない、直接的で、激しく、積極的な接触を通して、万人に共通の幸福感を知るべく来ていたのである。そして、純真にも、目上の者に対する服従や、彼の職業上の拘束、宗教上の規範、禁止令、検閲から遠く離れて、彼は無邪気に、生まれついての純朴さがもたらす至福のなかで、ロバよりも幸せそうに転げまわっていた。彼の散歩の目的が達成されると、わたしの幻影の主人公は身体についた雌蕊を振り払い、草の汁を拭うことも忘れずに、真っすぐ、一気に立ち上がると、群衆のなかを、見咎められずに、彼の聖職の習慣へと戻っていったのだろう、わたしはそのことをいささかも否定しようとは思わない。だが、そんなことは深く考えない権利はわたしにもある。最初にちらと目にした狂態に関して、わたしが慎み深く対処したことの報酬として、通りがかりの人間の夢想がそのイメージを完全なものにして興じるように、あの出来事についての、現代性〔モデルニテ〕という神秘の御璽が捺された、奇怪〔バロック〕でもあり美しくもあるイメージを永久に定着することではないだろうか。(完)


# by monsieurk | 2022-08-05 09:00 | マラルメ

マラルメの散文詩11「聖職者」(1)

聖職者


春は生きものを他の季節では知られない行動に駆り立てるが、博物学の多くの著作には動物におけるこの種の現象についての論文があまたある。この危険な瞬間が精神のために創造された個体の行動にもたらす諸々の変化を集めることは、一層説得力のあるものとなるだろう。わたしはといえば、冬の皮肉さ〔イロニー〕と上手く手を切れずに、曖昧な状態に甘んじていて、草花の新芽の違いを識別することに喜びを追求できるような、完全な、あるいは 素朴な自然派の心境にはなれていない。こんな状態では大衆に利益をもたらすことはないので、どうしたらそれが出来るかを考えるために、近ごろ街を取り囲むようになった樹の下へ逃れることにした。さて、春がもたらす影響の分かりやすく印象的な一例をわたしが見出だすことになるのは、このどこにでもある木陰の神秘からなのである。


つい先ほど、ブーローニュの森の滅多に人が来ない場所で、低いところで黒いものが動いており、何も隠さない小灌木の無数の隙間を通して、人目を避けて芝生の誘惑に応えている一人の聖職者の、前後に揺れる三角帽の天辺から銀の留め金でしっかり固めた靴まで、その全身を目にしたときのわたしの驚きは強烈だった。憤慨して道の小石を手にする偽善者と同じくらい意地悪く、分かっているといった微笑を投げかけることで、孤独な運動で生じたであろう赤みに加え、もう一度、この同情すべき男の、両手で覆われた顔に赤みを浮かべさせるのはわたしの本意ではなかった! (そんなことは神の思し召しに少しも適わない。)そこでわたしは、自分がいることで気を散らさないように、足早にするなど、配慮する必要があった。()


# by monsieurk | 2022-07-30 09:00 | マラルメ

マラルメの散文詩10「白い睡蓮」(2)

「あなたの顔立ちがどのタイプに適合するのか、それをはっきりさせるのは、夫人よ、訪れのかすか音がここにもたらしているものを途切らせてしまうと、わたしは感じるのです、そう、薄衣に包まれたこの本能的な魅惑は、ダイヤの留め金でしっかり締められた腰帯であろうと、探検者にそれを禁じることはありますまい。こんな漠然とした概念で十分なのです。そしてこうした概念は一般性を刻印された大きな喜びに背くこともないでしょう。その喜びはあらゆる顔を忘れさせ、また忘れることを命じるのですが、一つの顔の啓示は(わたしが支配する人目につかないこの境界の上に、どうかあからさまに顔を傾けたりしないでください)わたしの心の動揺を追い払ってしまうでしょから。もっとも顔の方は気にもかけないでしょうが。」


自己紹介、こんな水辺荒らしのような身なりでも、偶然を言い訳にすればそれを試みることができる。


隔てられているからこそ、一緒なのだ。わたしはいま水の上のどっちつかずの状態の中で、居るかいないか定かでない女性を夢想し続けている。訪問につぐ訪問の末にようやく許される以上に、わたしは彼女の恥じらい戸惑っている内心に介入しているのだ。ボートのマホガニー材に耳が触れるほど身を伏せて、あれっきり音の途絶えた砂地のあたりに聞き耳を立てていた。いまこのような直観的な心の触れ合いをふたたび見出すには、先ほどの聴きとれぬほどのわたしの呼びかけに比べて、どれほど多くの無駄な口説が必要になることか!


この休止はわたしが決断する時間にかかっている。


教えてくれ、おお、わが夢よ、どうすればよいのだ。


この孤独のなかに散らばる汚れない不在を一瞥のうちに要約することだ。そして、無疵な数々の夢と、ありえないだろう幸福と、人の出現を恐れてここに潜んでいるわたしの吐息からなる無を、その内側の白さで包み込み、この場に忽然と現れ出るこれらの睡蓮の閉じた花とひと茎を、ある場所の思い出として摘み取って出発することだ。ひっそりと、除々にオールを返して、何かと衝突して幻想が壊れないように、そしてわたしの逃亡につれて渦を巻く泡が、不意に現れた人の足もとに、わたしが拉致する観念の花に似た透明な飛沫を飛ばさないように気をつけながら。


かりに、ただならぬ感情に魅かれて夫人が姿を見せたとしたら、瞑想的な女性であれ、驕慢な女性であれ、猛々しい、陽気な女性であれ、残念ながら、わたしはその名ざしがたい顔つきを永久に知るよしもない! というのも、わたしは規則通りに操作を完了したからだ。ボートを漕ぎ出し、方向を変え、すでに小川の浪のうねりを回避して、孵化して飛ぶことのない高貴な白鳥の卵のような、想像上のトロフィーを持ち去ったのだ。それを膨らませているのは、どの夫人も、夏、庭園の小道を歩きながら、渡らなければならない泉のほとりや他の水辺で、ときどき長い間立ちどまっては、好んで求めるここちよい無心の状態にほかならない。


# by monsieurk | 2022-07-25 09:00 | マラルメ

マラルメの散文詩10「白い睡蓮」(1)

わたしはもう随分漕いでいた。規則ただしい、ゆったりとした動作で、半ば眠ったような状態で、眼は内心を見すえ進んでいることもすっかり忘れて。時間の笑いさざめきがまわりを流れて行くかのようだった。あまりに動きがないため、ボートが半ばまで何かの中に分け入る鈍い音をふと耳にし、水面に出ているオールの上の頭文字が鮮やかに輝くのを見てボートが止まっているのに気づき、ようやくこの世の自分に立ちかえった。


何が起こったのか? わたしはどこにいるのか?


この出来事をはっきり理解するには、炎暑の7月の朝早く、川幅が狭くものうげに流れる小川の眠っている植物の間の水面を、水草の花を求めて、さらには、女ともだちのそのまた女ともだちの領地の所在を確かめておきたいと思ったのである。彼女にはちょっと挨拶をしておかなければならなかった。いかなる草のリボン飾りも、わたしを特定の風景に引き留めることはなく、左右均等なオールさばきで、次々と水面に映っては背後へ追いやってきたのに、舟行きの謎めいた最後で、わたしは川の真ん中の葦の叢にたどり着き、乗り上げてしまったのだ。そこで川幅は広がり水辺には叢が茂り、すぐに流れ出ようとしては躊躇する泉のように、漣を立てる池のような物憂げな光景がひろがっていた。


子細に観察すると、流れの上に突き出たこの緑の障害物は橋の唯一のアーチを隠していることが分かった。橋の先の地面の、こちらとあちらは、すぐ芝生を囲む生け垣になっている。わたしは悟った。なんのことはない、***夫人、挨拶しなければならない未知の夫人の庭園なのだ。


避暑の季節のすてきなお隣さんだ、これほどしっとりとして侵入し難い隠棲地を選んだ女性の気質がわたしの趣味と一致しないはずはない。きっと、彼女はこの水のクリスタルを、午後のぎらぎらした不躾な光を避ける内側の鏡としたのだ。彼女はここにやって来ると、柳の銀色の冷たい水蒸気は、すぐにどの葉にも慣れ親しんだ彼女の眼差の清明さそのものになるのだった。


わたしはその人のすべてを浄めとして喚起していた。


見知らぬ女性が現れそうな辺りの沈黙のもとに、好奇心から運動選手のように身をかがめていた。わたしは、女性が出現する可能性を思ったとたんにこの隷属状態が始まったことに微笑んだ。妖術師が使用する道具と一体をなすように、漕ぎ手の靴をボートの底板に結びつける革帯がこの状態をかなりよく表していた。


――それにどんな女性にしろ・・・」、わたしは口をつぐんだ。


とその時、聞き取れないほどの物音がした、岸辺の住人がわたしの余暇〔つれづれ〕につきまとい、思いがけずこの水辺に姿をみせるのではないか、と疑いを抱かせた。


歩みが止まった。なぜだろう?


行きつ戻りつ、地面の上を流れるように進むスカートの白麻布とレースにくるまれた愛しい影が、望むところへ精神を導いていく足のその精妙な秘密。まるでちょっとした散策で、歩みが、地面すれすれに襞を後ろに引きずりながら、二本の賢い矢で道を拓いていくあの発意で、踝から爪先までを浮遊するスカートの吃水線のなかに巧みに包み込もうとするかのようだ。


散策する彼女自身、立ち止まった理由を知っているのだろうか。乗り越えてはらないこの葦と、わたしの明晰さがヴェールで覆われるこの精神的半睡状態からすれば、そこまで秘密を詮索することは、あまりにも背伸びしすぎるのではなかろうか。(続)


# by monsieurk | 2022-07-20 09:00 | マラルメ
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


by monsieurk
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