ムッシュKの日々の便り

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2011年度のバカロレア(大学入学資格試験)

 巨大地震と大津波がこの国を襲い、呆然として日々を過していた4月初め、未知の方から一通の手紙が届きました。差出人は吉田真也氏で、出版業界も大きな影響をうけている最中に、個人で出版社「吉田書店」を立ち上げた。ついてはかつて筑摩新書の一冊として出版された『エリートのつくり方――グラン・ゼコールの社会学』の改訂版を出すことが出来ないかという趣旨の内容でした。
 この本は1996年1月に出版したもので、フランスの高等教育の実態を書いたものが少なかったこともあって、刊行当時は書評などでも取り上げられましたが、その後は改版することなく15年がすぎました。この間、フランスの教育事情にも多くの変化があり、加筆、修正をして改訂版を出すことが出来るのは、著者として願ってもないことでした。
 さっそく筑摩書房に連絡をとると、吉田書店から改訂版を出すことを快く認めてくださいました。まことに有難いことでした。改訂版の原稿は6月半ばに書き終え、出発前日の明日、ゲラが組み上がります。フランスでゲラに手を入れる予定です。
 大震災では大学入試も大きな影響をうけました。直前に行われた大学入学試験では、携帯電話を使ったカンニングが起こり大きな事件となりました。いまでは何か遠い出来事のように思えますが、今回は日本の大学入試のあり方と大分違うフランスの大学入試を取り上げようと思います。
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 フランスの大学入学試験はバカロレアと呼ばれて、200年以上前のナポレオン1世の時代に始まっています。これは大学への入学資格を得るために、全国一律に行われる国家試験で、今年も6月16日から行われました。試験は大学毎に行うのではなく、全国を幾つかのブロックに分けて行われます。一つのブロックの問題は同一で、ブロック毎の問題も同じレベルの問題が出されます。日本とのもう一つの大きな違いは、日本の試験問題が主に知識の量を問うのに対して、フランスでは身につけた知識を生かしつつ、自分が考えたことを、どれだけ論理的に展開できるかを試験します。
 バカロレアには、普通バカロレア、技術バカロレア、職業バカロレアの3種類があり、多くの学生は普通バカロレアを受験します。これも人文(L)、自然科学(S)、社会・経済(E・S)の3つの系に分れ、各系によって、受験科目も、科目毎の配点の比重も異なります。ただすべての系に共通して、受験者全員が第一日目の最初に行われる哲学の試験を必ず受験しなくてはなりません。

 フランスでは高校の最後の学年で哲学の授業が行われます。これは小学校や中学校の国語の授業を受けて、物事を論理的、客観的に考え、それをいかに的確に表現するかを教える大切な授業です。普通バカロレアの人文(L)系の場合を例に取りますと、高校卒業の1年前に、国語(フランス語)の試験があり、これに合格することが前提で、バカロレアでは、哲学、文学、歴史・地理、第1外国語、第2外国語が必修です。人文系の場合、哲学の成績は他の教科の2倍近い比重を占めています。今年2011年度の哲学の試験問題は以下のとおりです。

人文系 係数 7
(1) 科学的仮説は証明できるか?
(2) 人間は自分自身については幻想を持つことを余儀なくされるか?
(3) ニーチェの『悦ばしき知識』の抜粋を説明せよ。

科学系 係数 3
(1) 文化は人間を自然ではなくさせるか?
(2) 人は事実に反する道理(raison)をもつことができるか?
(3) パスカルの『パンセ』の抜粋を説明せよ。

社会・経済系 係数4
(1) 自由は平等によって脅かされるか?
(2) 芸術は科学より必要性が低いか?
(3) セナカの『恩恵について』の抜粋を説明せよ。

各系とも、これらの内から1つを選んで解答します。皆さんも挑戦してみてください。試験時間は4時間です。
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by monsieurk | 2011-06-26 15:53 | フランス(教育)
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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