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ムッシュKの日々の便り

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「パリの人びと」 I

 『パリの人びと(Les Types de Paris, Edition du Figaro, Plon, Nourit et Cie,)』と題する絵入り冊子が発行されたのは1889年のことである。
「パリの人びと」  I_d0238372_13515941.jpg

 パリで人気のあった画家で版画家のジャン=フランソワ・ラファエルリ(Jean-François Raffaëlli 1850-1924)と、人気作家や詩人の文章を組み合わせて、パリで展開するさまざまな光景を描こうというアルベール・ウォルフの発案で、10冊の小冊子が出版された。各巻にはラファエルリの美しく楽しい絵と、ゴンクール、ドーデー、ゾラ、モーパッサン、ユイスマンスなどの散文や詩が収められていた。マラルメが詩を寄せたものは第7号に載った。
 国立印刷局版『ステファヌ・マラルメ詩集』を編纂したピエール・シトロンによれば、ラファエルリがマラルメに目をつけたのは、マラルメが1886年ころから書きはじめていた「郵便つれづれ」(封筒の表に書かれた相手の名前と住所を詠い込んだ四行詩)が、知人たちの間で評判になっていたからだろうと推測している。
 ジャン=フランソワ・ラファエルリは、イタリア人の先祖をもつフランスの画家・版画家で、国立美術学校「エコール・デ・ボザール」でレオン・ジェロームに学び、1870年に官展(サロン)に最初の作品を出品した。1884年、彼は屑屋と小市民を題材にした絵の個展を開いた。そんな彼はステファヌ・マラルメに、パリの人たちを主題にした共作を持ちかけた。マラルメが承諾すると、ラファエルリは街で見かけるさまざまな職業の人たちの生態を絵にした版画を詩人に送り、詩人はこれらの絵を見ながら詩をつくったのである。
 「路上の人たち(Les Types de la rue)」という総題のもとで、マラルメが創作した詩は全部で8篇。それぞれ、「ラヴェンダーを売る小柄な女」、「靴直し」、「韮と玉葱売り」、「職人の女房」、「新聞売り」、「道路工夫」、「女の古着売り」、「硝子屋」というタイトルがついている。
 街角で見かけるこうした職業の人たちの姿を、ラファエルリが巧みな筆で描き、それに触発されたマラルメが詩をつけているのだが、この詩がどうして、一筋縄ではいかない作品である。たとえば、「女の古着売り(La marchande d’habits)」は、こんな風にうたわれている。

  Le vif œeil dont tu regardes「パリの人びと」  I_d0238372_13523835.jpg
  Jusques à leur contenu
  Me sépare de mes hardes
  Et comme un dieu je vais nu.

  お前のするどい眼は
  中身まで見通し
  着古しの服から私をひきはがす
  そこで神様のように裸で行くとしよう。

 古着を腕にかけて売り歩く女の古着売りは、鋭いひと睨みで、道行く人の服の値踏みをする。そんな一瞥を浴びれば、いっそ服を脱ぎ捨てて、裸になりたくもなるというのが表の意味だが、裏には、古臭い形式を脱ぎ捨てて、象徴詩を確立したいという願いが隠されているようだ。神様のような裸体こそ、聖なる詩人のイメージなのである。
 その他、「小柄なラヴェンダー売りの女(La petite marchande de lavandes)」は、

  Ta paille azur de lavandes,
  Ne crois pas avec ce cil
  Osé que tu me la vendes
  Comme à l’hypocrite s’il

  En tapisse la muraille
  De lieux les absolus lieux
  Pour le ventre qui se raille
  Renaître aux sentiments bleus.

  Mieux entre une envahissante
  Cheveulure ici mets-la
  Que le brin salubre y sente,
  Zéphirine, Paméla

  Ou conduise vers l’epoux
  Les prémices de tes poux.

  蒼のラヴェンダーの束を、
  その睫毛で、私に売りつけよう
  などと思うな
  偽善者に売るように かりに

  それを究極の部屋の壁に
  飾るとしても そこは
  嘲笑う腹をもう一度
  青い気分に蘇らせる場所。

  むしろ伸び放題のその髪に
  挿しておく方がいい
  さわやかな草が髪に薫るより、
  ゼフィリーヌ、パメラよ

  それとも夫の方へ這っていく
  生まれたばかりの蝨たちが。

 また、「新聞売り(Le crieur d’imprimes)」は、

  Toujours, n’importe le titre,
  Sans même s’enrhumer au
  Dégel, ce gai siffle-litre
  Crie un premier numéro.

  いつものように、見出しはお構いなし
  雪解けに風邪もひかず、
  その陽気な呼子の喉で
  新聞刷りたて、と叫んでいる。

といった詩である。
by monsieurk | 2012-04-12 23:30 | マラルメ
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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