「パリの人びと」 II
ラファエルリは、「フィガロ」紙の社長マニャールとマラルメとのやり取り(ブログ「乗合馬車の話」2011.12.31)を知っていたのだろうか。
それでなくても、マラルメの詩の難解さは評判だった。ただ、画家の危惧にもかかわらず、マラルメの詩は無事出版者のお眼鏡にかない、素晴らしい小冊子が出現したのである。
マラルメは生前、『詩集』の校正刷りに手をいれていたが、これは彼の死の翌年ベルギーの出版者ドマンの手で刊行された。そこには「パリの人びと」として発表した8篇のうち、「ラヴェンダー売り」(「詩集」では「芳香草を売る女商人」と改題)と次の「靴直し」の、軽快な7韻を踏むソネ形式の詩だけが収録された。他の5篇もあわせて訳してみる。
Carreleur de soulier
Hors de la poix rien à faire,
Le lys naît blanc, comme odeur
Simplement je le préfère
A ce bon raccommodaeur.
Il va de cuir à ma paire
Adjoidre plus que je n’eus
Jamais, cela désespère
Un besoin de talons nus.
Son marteau qui ne dévie
Fixe de clous gouailleurs
Sur la semelle l’envie
Toujours conduisant ailleurs.
Il recréerait nos souliers,
Ô pieds, si vous le vouliez!
靴直し
ワックスがなければなす術なし、
百合は白く生まれ、匂いだけでも
単純にこっちの方がいい
この善良な修理屋より
私の靴に革をこれまで
以上に重ねるというが、
それでは裸足の踵の願を
駄目にしてしまう。
打てば外さぬその金鎚が
底革にしっかり打ち留める
そっぽを向きたがる
からかい好きの靴釘を。
奴は靴をつくり変えてしまうぞ、
おお 足よ! 君らがそれを望むなら!
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Le Catonnier
Ces cailloux, tu les nivelles
Et c’est, comme troubadour,
Un cube aussi de cervelles
Qu’il me faut ouvrir par jour.
道路工夫
この石ころを、お前はならす
それは、吟遊詩人のように、
私が日ごと開かねばならぬ
脳味噌と同じ立方体。
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Le marchand d’ail et d’oignons
L’ennui d’aller en visite
Avec l’ail nous l’éloignons.
L’élégie au pleur hésite
Peu si je fends des oignons.
韮と玉葱売り
人を訪ねる憂さを
大蒜食べて遠ざける
玉葱切れば、涙の哀歌
ためらうことなく流れだす。
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La femme de l’ouvrier
La femme, l’enfant, la soupe
En chemin pour le carrier
Le complimentent qu’il coupe
Dans l’us de se marier.
職人の女房
女房、子ども、スープが
石工を途中で待ちうけて
結婚したからは
石を刻めとご挨拶。
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Le vitrier
Le pur soleil qui remise
Trop d’éclat pour l’y trier
Ote ébloui sa chemise
Sur le dos du vitrier.
ガラス屋
むき出しのお天道さまは強い光を
取戻し 彼を選び分け
目の眩んだガラス職人の
背中のシャツをむしり取る。
こうして訳を並べてみると、詩の翻訳がいかに難しく虚しい行為かを痛感させられる。ただ、マラルメの洒脱な一面をくみ取っていただければ、せめてもの幸いである。