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ムッシュKの日々の便り

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キルメン・ウリベ詩選

 先のブログ(「バスクの作家、キルメン・ウリベ」)で紹介した、『ビルバオ―ニューヨーク―ビルバオ』の翻訳者、金子奈美さんから、『キルメン・ウリベ「詩選」(Poema hautatuak)』を頂戴した。
  お手紙によると、昨2012年11月、ウリベが来日した折に、沖縄で現地の詩人たちと行った朗読会のためにつくられたもので、まだ一般の読者の手にわたるような形では刊行されていないとのことである。薄緑の表紙には、UとKの文字を象った模様の上に、KIRMEN URIBE Poema hautatuak とある。
 本文では3冊の詩集から選ばれた12篇の詩が、左ページにバスク語の原詩、右ページには日本語訳という形でおさめられている。翻訳はもちろん金子さんである。
 どの詩もウリベらしい優しさに溢れているが、上記の小説作品の背景を詠ったともいえる一篇を紹介しよう(ただしバスク語の原詩は最初の二節のみ)。

  APARTE―APARTEAN

Sei urterekin egin zuten lehen itsasoratzea aitak eta osabak,
eta patroitza Bustio baporean ikasi.
Gogorrak ziren garai hartako patroiak,

ekaitz egunetan ukabilak estutu eta zerura begira
《bizarrik badaukazu etorri hona! 》
  Jainkoari amenazu egiten zieten horietakoak.
・・・・・

  もっと、もっと遠くへ

  父と叔父は、六歳ではじめて海に出て
  帆船ブスティオ号で航海術を学んだ
  当時の船員たちは荒くれ者で

  嵐の日には拳を握りしめ、空を見上げて
  「かかって来られるものなら来るがいい!」
  と神をも脅すような連中だった

  父や叔父がまだ幼かった頃、上の四人の兄弟は
  日曜のミサに順繰りに行かなければならなかった
  家にあった子供用のスーツは一着だけで 一人が教会から戻ると

  スーツを脱ぎ、次の子に渡す
  そうして彼らはミサに行った
  順番を守り、靴は自分のを履いて

  子供の頃、父が海から戻ってくる日になると
  僕らは港の埠頭の先で
  西の方角を見つめながら待っていた はじめのうちは

  何も見えなかったけれど、すぐに
  誰かが水平線上に黒い点を見つけ
  それが次第に船のかたちを帯びてくる

  一時間もすると船は埠頭に到着し
  港に入ろうとして、僕らの目の前で大きく方向転換した
  父は僕らに手を振った

  船がやってくると、僕らは急いで
  接岸する場所へと駆け寄ったものだった
  父は、病床にあった最後の日々ですら

  人生の素晴らしさを讃え、僕らにこう言った
  その日、その瞬間を生きるんだ いつも心配ばかりしていたら
  人生はお前たちのもとから逃げ去ってしまう

  そしてこう言った つねにもっと北へ
  船を進めるんだ、魚が獲れるとわかっているところに
  網を投げてはいけない

  もっと、もっと遠くへ探しに行くんだ
  すでに手にしたもので満足せずに
  《死はすべてを打ち負かしはしない》

  とディラン・トマスは書いた
  しかし、ときには死が勝ち
  父の人生もそうして終わった

  西へ向かい
  水平線に消えていく船のように
  その航跡に思い出を描き出しながら

 海にかこまれた沖縄で、バスク語の詩人とウチナーグチの詩人たちの間で、どんな話が交わされたのだろうか。泡盛の杯が行きかい、三線が美しい旋律を奏でたのだろうか。
by monsieurk | 2013-02-14 16:30 |
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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