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ウェブ・マガジン「Slate.fr」

ウェブ・マガジン「Slate.fr」_d0238372_114349.jpg トゥールーズの地下鉄の入口では、毎朝、フリー・ペーパー「Direct Matin」が配られている。これに毎週月曜日、ジャン=マリ・コロンバニ(Jean-Marie Colombani)の「ブロック・ノート」が掲載される。
 コロンバニはフランスでもっとも信頼できる新聞「ル・モンド」の政治記者として鳴らし、その後同紙の編集長・社長にもなった。パリ特派員時代には交流があって、大きな出来事の背景説明を聞かせてもらった仲であった。彼は2007年に「ル・モンド」を退くと、ウェブ・マガジン「Slate.fr」の編集責任者として、ニュースの解説やエセ-に健筆を振るうようになった。「Direct Matin」の記事は、このSlate.frから転載したものである。
 「Slate(スレート)」は1996年、アメリカでスタートしたウェブ上だけで読めるマガジンで、初代編集長は「ニュー・レパブリカン」の元主筆マイケル・キンズレーがつとめた。その後2004年からはワシントン・ポスト・グループの傘下となって今日に至っている。
 フランス版「Slate.fr」は、コロンバニ、エリック・ルゼール、ジャック・アタリなど4人のジャーナリストが2009年に創設したもので、彼ら4人が資本の50%を持ち、残りのうち15%をSlateグループが所有している。このように資本の上でも、ジャーナリストたちが自由にものを言える仕組みが担保されている。
 コロンバニがこの点にこだわったのには、「ル・モンド」での苦い経験があった。「ル・モンド」紙はフリー・ペーパーの台頭やテレビ・ラジオの攻勢で、2004年には発行部数が前年比4.2%減の34万部まで落ち込み、赤字が拡大して外部資本が導入された。その結果、新聞の独立性を保障するために、記者会が株式の40%を持ってきた伝統が崩れたのである。コロンバニたちが「Slate.fr」を立ち上げる際に、株式の半数を自分たちジャーナリストが保有することに拘ったのはこの経験によるものだった。「Slate.fr」は政治・経済だけでなく文化、芸術など広い分野をカヴァーして、鋭い分析と解説が売りもので毎月350万人が訪れる人気のサイトに成長した。運営資金は広告収入で賄われ、誰でも無料でアクセスできる。(「ル・モンド」紙にも電子版があるが、記事全部を読むには登録料を払う必要がある)。
 コロンバニの最新の「ブロック・ノート」は、「バラク・ケネディとジョン・フィッツジェラルド・オバマ」と題した、アメリカ民主党の二人の大統領を取り上げたものである。
 「世界のいたるところでジョン・フィッツジェラルド・ケネディの暗殺から50年の記念行事が行われ、民主主義を標榜する国々ではリーダー・シップのあり方が議論する機会となっている。だが現代における最後の政治的神話だったバラク・オバマ神話はいまや消えつつある。
 二人のアメリカの大統領を比較することは容易だ。今日の目から見れば、ジョン・ケネディは、わたしたちが信じたほどよい大統領ではなかった。そしてバラク・オバマはわたしたちが望んだほどよい大統領ではなかった。
 二人はそれぞれのやり方で、新たな飛躍への期待、新たな息吹、政府のクオリティーと民衆の賛同との合致を実現するかに見えた」。だが彼らは二人ともその期待を裏切ったと、コロンバニは言うのである。
 ケネディについていえば、ヴェトナム戦争へのコミット、キューバ危機の際にとった一連の行動は再検討される必要があり、オバマに関しても、アメリカが多文化社会を実現して、「古いヨーロッパ」は文明の博物館の棚に片づけられる恐れがあったのに、その期待も裏切られそうだと述べている。
 ケネディーは1962年のキューバ危機では、核戦争勃発を賭してソビエトのフルシチョフに最後通告を送り、これが功を奏してソビエトはキューバに建設中のミサイル基地を撤去したとして、「断固とした外交のできる政治家」として名をあげた。だがケネディーは核戦争に踏み切る決断をしていたことが後の資料で明らかになった。このとき核戦争が回避され、人類が生きのびられたのは、ソビエト側の賢明な判断と対応によるものだった。
 コロンバニによればオバマの弱点も外交にあって、彼の「leadership from behind(裏で操る姿勢)」は、逡巡・ためらいの現れにほかならない。事実は、これはシリア制裁をめぐる一連の行動によって露呈してしまった。
 アメリカ民主党の伝統(コロンバニは、フランスなら左派と呼ばれると注記している)を体現する二人の大統領の資質と行動を、私たちは厳しい目で見守る必要がある。過去も、そしてこれからも、アメリカ大統領が世界の動向に巨大な影響をあたえることに変わりはないからだ。これがコロンバニのコラムの結びである。
by monsieurk | 2013-12-03 22:30 | メディア
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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