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ムッシュKの日々の便り

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マンガとバンド・デシネ

 フランスで日本の「マンガ」がブームであることは以前に紹介したが、フランスにも「バンド・デシネ(Bande dessinée)」と呼ぶ劇画の伝統がある。これは文字通りに訳せば「描かれた帯」、つまり長篇の「劇画」を指し、子どもだけでなく大人にも愛読者が多い。マンガとバンド・デシネ_d0238372_157753.jpg
 その一つが、ベルギーの画家エルジェの『タンタンの冒険(Les aventures de Tintin)』で、タンタンとう名の少年が、犬の相棒ミルーを連れて世界中を冒険してまわるシリーズもので、1929年に最初の「タンタン、ソビエトへ行く」が出版されて以来、多くの世代に読みつがれてきた。もう一つのシリーズ『アステリックスの冒険(Une aventure d'Astérix, le Galois)』は、アルベール・ユデルゾがテクストを、ルネ・ゴシニが絵を担当して、1959年に最初の一冊が出版された。舞台は古代ローマ時代のガリヤ、つまり現在のフランスで、主人公アステリックスが大活躍し、それを通してフランスの歴史やフランス人気質を風刺をこめて描いている。作品は教科書にも載せられるほどフランス人の生活に根づいている。
 フランスのバンド・デシネは、社会的に高く評価されていて、年に一度、アングレームという街で大きな見本市が開かれ、真面目な批評の対象になる。少し前だが、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』もバンド・デシネになり大きな話題になった。プルーストの『失われた時を求めて』は、日本語に訳すと400字詰目原稿用紙で2万枚にもなる大作で、テーマや筋を忠実に再現した7冊のバンド・デシネとして刊行されたのである。マンガとバンド・デシネ_d0238372_1592912.jpg
 最近のもので傑作と評判が高いのは、2004年に第1巻が刊行された『カメラマン(Le photographe)』である。これはカメラマンのギベール・ルフェーヴルが原案と写真を出し、フレデリック・ルメルシエが構成とテクストを担当したもので、全体は3部からなる。全巻がまとめて出版されたのは2010年のことである。この作品の最大の特徴は、写真と絵を組み合わせるという、マンガとバンド・デシネ_d0238372_15123265.jpgバンド・デシネで初めての試みがなされたことだった。
 テーマは1978年に起きた「アフガニスタン紛争」で、写真家のルフェーブルが、現地で活動する「国境なき医師団」を追ったルポルタージュがもとになっている。アフガニスタン紛争では、1979年にソ連が軍事介入して、多くの犠牲者や難民を生んだが、現地の実情を「国境なき医師団」の活動に寄り添いつつ克明に記録し、写真で表現しきれない部分をリアルな絵にすることで伝えている。
 この作品を知ったのは偶然からだった。2004年2月に、放送大学のパネラーとして、香港で開催された「国際遠隔教育評議会(ICDE)」に出席したとき、ホテルで見ていたフランスのテレビで、読書案内の番組に登場した作者の二人が、自分たちのユニークなこころみを語っていた。帰国後すぐにフランスから作品を取り寄せて読んだ。
マンガとバンド・デシネ_d0238372_15224954.jpg
 
 その後、作品は第2巻、第3巻がつけ加えられて、2010年に全264ページとして出版された。第1巻を読んだ直後、その内容と形式に感心し、知り合いの編集者に日本語版の出版を勧めたのだが、そのときは実現せず、10年後の今年2014年4月に、絵や写真部分は原作のまま、地の説明文と「ふきだし」を日本語に訳したものが出版された。
 日本でも最近、社会派のマンガが創作されるようになった。だが原発事故の放射能の影響をに踏み込んだ『美味しんぼ』は、風評被害を助長するなどの理由で雑誌掲載をストップされてしまった。
 それでも福島原発事故については、竜田一人(たつた・かずと)の『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』が関心を集めている。竜田というのはペンネームで、作者は実際に福島第一原発の事故現場で作業員して働いた経験があり、外部からでは分からない福島第一原発の深刻な現状がくわしく描かれていている。
 マンガやバンド・デシネは、いまでは情報を伝える重要な媒体であり、問題意識をもって作品が創作されることを期待したい。知り合いのフランス人が、翻訳したといって、『いちえふ』を持って帰ったが、さてどうなることか。
by monsieurk | 2014-07-17 22:30 | メディア
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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