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ムッシュKの日々の便り

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パブロ・ネルーダⅢ

 1943年にチリに帰国したネルーダはペルーを旅行して、マチュ・ピチュを訪れて強い感銘をうけた。

 
  「マチュ・ピチュよ
   大地の梯子をよじのぼり
   消えうせた森の肌を刺す藪の中を
   わたしはおまえの処まで登ってきた
   山のてっぺんの都市よ 石の階段よ
   大地も死の経帷子のなかに隠さなかった者の住処よ
   おまえの中には二本の平行線のように
   稲妻の誕生と人間のそれとが
   棘のような嵐の中に息づいている
   ・・・・・」(『マチュ・ピチュの頂き』)

 
 ネルーダと同世代の左翼知識人は、スペイン内戦を通してスペイン共和派を支持し続けた。その代表的存在がイギリスのジョージ・オーウェル、アメリカのヘミングウェイ、フランスのアンドレ・マルローたちであった。しかし国際義勇兵の一員や飛行隊長としてスペインの戦場に立った彼らは、やがてソビエトの内部事情やスターリンの打算を見抜いて離れていく。
 一方ネルーダは、1945年3月、共産党に推されて立候補して上院議員に当選した。その4カ月後には正式に共産党に入党し、パブロ・ネルーダⅢ_d0238372_10252697.jpg翌46年の大統領選挙では、左翼共同戦線の候補ゴンサレス・ヴィデラのためにキャンペーンを取り仕切り、ヴィデラは当選した。だが大統領になるとアメリカと手を握り、共産主義者を弾圧するようになった。ネルーダは上院でヴィデラの裏切りを弾劾する「私は告発する」という演説を行ったため、ヴィデラは逮捕令状をもってこれに応え、ネルーダは地下に潜らざるをえなかった。彼と妻は支持者の家から家を隠れ歩いた。やがて共産党は非合法化され、2万6千人が選挙権を剥奪された。
 ネルーダはやむなく外国に亡命して3年間を過ごすことになった。アルゼンチンのブエノス・アイレスにいたとき、将来のノーベル文学賞受賞者で、当時グアテマラ大使館の文化アタシェだったミグエル・アンヘル・アストゥリアスと顔形が似ていることを利用して、彼のパスポートを使ってヨーロッパへ行き、パリで開催された「国際平和会議」に突如姿をあらわした。ネルーダはその場で詩を朗読し、会場から熱烈な拍手をうけた。詩人のために色々と骨をおったのは画家のピカソだった。このニュースで面目を失ったチリ政府は、彼の出国という事実自体を否定した。
 ネルーダはその後も、フランス、イタリア、チェコスロバキア、ソビエト、中国を旅行してまわり、1952年に祖国へ戻った。この間もその後も彼の旺盛な創作意欲は衰えなかった。詩集『大いなる歌』(1950年)、『ぶどう畑と風』(1954年)、『エレメンタルなオード集』(同年)、『旅』(1955年)、『新しいエレメンタルなオード集』(同年)を次々に発表した。
 ネルーダは1953年に「スターリン平和賞」を受賞し、この年にスターリンが死去すると、スターリンを悼むオードを書いた。こうしたネルーダについて、長年の友人だったオクタヴィオ・パスは、「ネルーダは次第にスターリニストになっていった。一方、私は年々スターリンから離れた。それでもネルーダを彼の世代のもっとも偉大な詩人であるというのを惜しまない」と語っている。
 1956年のソビエト共産党第20回大会で、フルシチョフは有名なスターリン批判を行い、独裁や大粛清などの歴史的事実が公けにされ、ネルーダもスターリンへの個人崇拝を悔やむことになるが、コミュニズムへの信頼は揺らぐことはなかった。
 彼の詩集は世界の主要な言葉に翻訳され、その政治的立場にかかわらず高い評価をえた。ネルーダの自らの政治的立場を隠そうとはしなかった。パブロ・ネルーダⅢ_d0238372_1028130.jpgキューバ危機やヴェトナム戦争ではアメリカの政策を正面から批判した。
 彼の発言は、政治的に敵対する勢力にとってきわめて厄介なものだった。アメリカのCIAが資金を出して設立された「文化の自由のための協会」という反共団体は、ネルーダを主要な標的にした。ネルーダが1964年のノーベル文学賞候補に押されたときには、彼が過去にトロツキー暗殺に加担したという虚偽の宣伝を広め、結局この年の文学賞はジャン=ポール・サルトルに決まったが、サルトルは授賞を辞退した。(続)



 
 
by monsieurk | 2014-07-26 22:30 |
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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