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ムッシュKの日々の便り

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最近の書評(その2)

 パトリック・オウジェニーク『エウロペアナ』(白水社、2014年)

 京都大学文学研究科で「20世紀学」講座を担当していたことがある。そのときにこれが出版されていれば、間違いなくテクストに使ったに違いない。最近の書評(その2)_d0238372_6452867.jpg副題に「20世紀史概説」とうたった本書は、刊行当初「誤って」歴史関係の書棚に並べられたという。だが著者はインタビューで、「この副題は古典的な反語です――皆さんが手にしているのは、20世紀の概説ではないのです」と述べているが、本書は20世紀に出現した事象、「世界大戦」から子ども用の「バービ―人形」まで、ナチスによる「ショア」(ユダヤ人絶滅政策)から麻薬の横行やセックスまで、私たちが経験した大小の出来事をとりあげて、それを風刺をこめて物語る。たとえば「第一次世界大戦の開戦から一年(中略)、ヴォークワにいたドイツ兵のもとにはよく訓練された犬がおり、ドイツ軍とイギリス軍のあいだを行ったり来たりして、パンや煙草やチョコレートやコニャックを運んでいたという。ドイツ軍には煙草やチョコレートがあったが、パンやコニャックがなかった」からだという。本書にはこうした意表をつく話が満載である。
 「(第一次大戦がはじまった1914年)、「あるフランス人女性がブラジャーを考案し、スポーティな現代のライフスタイルを望む女性たちに新しい生活をもたらし、かたやコルセットの消滅はそれまでありとあらゆる偏見に結びつけられていた古い世界の終焉を表していると新聞は論じた。1935年には、アメリカ人が胸の小さい女性向けにパッドのついたブラジャーを考案した。1968年には、西側の都市で女性の権利を主張するデモ行進が行われ、新聞記者たちの眼の前でわざとブラジャーを外し、男女平等を訴えた。」この数行で百年の女性の歩みの一面が鮮やかに浮かび上がる。著者オウジェドニークは風刺小説『兵士シュヴェイク』を生んだチェコ出身らしく、ヨーロッパの近現代を、コラージュの手法で百数十ページの本にまとめ、鮮やかに描いてみせた。本書を見つけた訳者と出版社に拍手。
副題に「20世紀史概説」とうたった本書は、刊行当初「誤って」歴史関係の書棚に並べられたという。だが著者はインタビューで、「この副題は古典的な反語です――皆さんが手にしているのは、20世紀の概説ではないのです」と述べているが、本書は20世紀に出現した事象、「世界大戦」から子ども用の「バービ―人形」まで、ナチスによる「ショア」(ユダヤ人絶滅政策)から麻薬の横行やセックスまで、私たちが経験した大小の出来事をとりあげて、それを風刺をこめて物語る。たとえば「第一次世界大戦の開戦から一年(中略)、ヴォークワにいたドイツ兵のもとにはよく訓練された犬がおり、ドイツ軍とイギリス軍のあいだを行ったり来たりして、パンや煙草やチョコレートやコニャックを運んでいたという。ドイツ軍には煙草やチョコレートがあったが、パンやコニャックがなかった」からだという。本書にはこうした意表をつく話が満載である。
 「(第一次大戦がはじまった1914年)、「あるフランス人女性がブラジャーを考案し、スポーティな現代のライフスタイルを望む女性たちに新しい生活をもたらし、かたやコルセットの消滅はそれまでありとあらゆる偏見に結びつけられていた古い世界の終焉を表していると新聞は論じた。1935年には、アメリカ人が胸の小さい女性向けにパッドのついたブラジャーを考案した。1968年には、西側の都市で女性の権利を主張するデモ行進が行われ、新聞記者たちの眼の前でわざとブラジャーを外し、男女平等を訴えた。」この数行で百年の女性の歩みの一面が鮮やかに浮かび上がる。著者オウジェドニークは風刺小説『兵士シュヴェイク』を生んだチェコ出身らしく、ヨーロッパの近現代を、コラージュの手法で百数十ページの本にまとめ、鮮やかに描いてみせた。本書を見つけた訳者と出版社に拍手。
by monsieurk | 2014-10-19 22:30 |
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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