中野重治の詩「ポール・クローデル」Ⅰ
高村光太郎から吉松剛造まで90人の詩128篇を訳したものである。取り上げられた詩人はほぼ時代順には並んでおり、そのなかで中野重治の「Paul Claudel(ポール・クローデル)」に目がとまった。
Paul Claudel était poète
Paul Claudel était ambassadeur
Et la France a occupé la Ruhr
Les paysans français ont fait des économies
Et les riches ont tout pris
Et les riches ont prié la Vierge Marie
Et Paul Claudel a prié la Vierge Marie
Et Paul Claudel est devenu ambassadeur
Et Paul Claudel a écrit des poèmes
Paul Claudel a écrit des poèmes
Paul Claudel a tourné autour des douves impériales
Paul Claudel a joué du shamisen
Paul Claudel a dansé le kabuki
Paul Claudel a fait de la diplomatie
Et alors, oh mon Dieu!
Un jour
Paul Claudel
A fait l'éloge posthume de Charles-Louis Philippe
Oh! Grand Paul !
Claudel, ambassadeur et poète !
⦅Notre petit Philippe⦆
Dit peut-être maintenant dans son pauvre tombeau :
Paul Claudel est ambassadeur !
仏訳、イヴ=ーマリ・アリュ
原詩は以下のとおりである。
ポール・クローデルは詩人であった
ポール・クロデールは大使であった
そしてフランスはルールを占領した
ロマン・ローランはスイスに逃げた
ウラジミール・イリイッチはロシアに帰った
そしてポール・クローデルは詩を書いた
フランスの百姓は貯金した
それを金持が取り上げた
そして金持はマリヤを拝んだ
そしてポール・クローデルはマリヤを拝んだ
そしてポール・クローデルは駐日大使になった
そしてポール・クローデルは詩を書いた
ポール・クローデルは詩を書いた
ポール・クローデルはお濠にはまった
ポール・クローデルは三味線を奏いた
ポール・クローデルは歌舞伎を踊った
ポール・クローデルは外交した
おゝ そして
ついに或る日
ポール・クローデルがシャルル・ルイ・フィリップを追悼した
大使がフィリップを!
おお偉大なポール・クローデル!大使で詩人といふポール・クローデル
我らの小さなフィリップは
彼の貧しい墓の下で言ふだろう
「ポール・クローデルは大使になった」。
原詩と訳詩を比べると、原詩の第二節が省略されている。ロマン・ローランやイリッチの当時の状況説明が、本筋から逸れると訳者が判断したためである。もう一つの変更は、第4節の、「ポール・クローデルはお濠にはまった」が翻訳では、「ポール・クローデルは皇居のお濠の周りをまわった」と訳されていて、クローデルが皇居のお濠に落ちたことは当時日本で話題になったが、これの逸話をフランス語の読者に分からせるには説明が必要になるため、ここは意訳したのである。イヴ=ーマリ・アリュの翻訳は、詩の意味だけでなく音韻の点でも上手くフランス語に移している。それにしても、中野重治はこの「ポール・クローデル」で何を意図したのだろうか。(続)