アルベール・カミュ「アルジェの夏」Ⅲ
昼が夜に移りゆくほんの短い一瞬、私のなかのアルジェが、この点に結びつくには、隠れた徴と呼びかけに、満たされる必要があるのだろうか? この国をしばらく離れていた間、私はこの国の夕暮れを、幸福の約束のように思い描いた。街を見下ろす丘には、乳香やオリーヴの木のなかに、幾筋も道がある。そして私の心が戻っていくのは、これらの道だ。私はそこで、緑の地平線上を黒い鳥の群れが空へ飛んでいくのを目にする。太陽が急に消えた空では、何かが和らぐ。茜色の雲の小さな群れが引き伸ばされ、大気へ溶け込んでいく。その直後、最初の星が現れ、人びとはそれが形をつくり、厚さを増す空のなかで固まっていくのを眺める。そして突然、貪婪な夜がやってくる。アルジェの束の間の夕暮れ。私の心にこれほど多くのものを解き放つものが、他に何があるだろうか? 夕暮れが私の唇に残す甘美な味わい、それは飽きる間もなく、夜のなかへ消えてしまう。これが持続する秘密なのだろうか? この国の優しさは気を動転させ、それでいて密やかなのだ。それがあるだけで、少なくとも心は、すべてをそれにゆだねてしまう。パドヴァニの浜辺では、毎日ダンスホールが開いている。横に長く、海に向かって開かれた巨大な長方形のホールでは、この界隈の貧しい若者たちが夕方まで踊っている。しばしば、私はそこで奇妙な一刻を待った。日中、ホールは斜めに張り出した木の庇で保護されている。太陽が沈むと、それが引き上げられる。するとホールは、空と海の両方の貝殻から生まれた、不思議な緑の光でみたされる。窓から離れて座っていると空しか見えない。そのなかを中国の影絵のように、踊っている人たちの顔が次々に通り過ぎていく。ときおりワルツが奏でられる。すると緑色を背景にして、黒い横顔が執拗に回転する。まるで蓄音機のターンテーブルに固定された、切り抜きのシルエットのようだ。次いですぐに夜が来る。それとともに、灯りがともされる。だがこの微妙な瞬間に、私が感じる興奮と微妙な想いをなんと表現したらいいだろう。私は少なくとも、午後のあいだ、踊り続けた背の高い素敵な娘のことを思い出している。彼女は身体にぴったりとした青い服を着て、ジャスミンの首輪をしていた。そして汗が服の腰から脚までを濡らしていた。彼女は踊りながら笑い、頭をのけぞらせた。彼女がテーブルのわきを通るとき、花と肉の混じった匂いを残していった。夕暮れがやって来た。ぴったり相手にくっついた彼女の身体はもう見えなかった。でも空では、白いジャスミンと黒い髪が、染みのように交互にまわっていた。そして、彼女がふくらんだ喉を後ろにそらすと、彼女の笑い声が聞こえ、踊っている相手の横顔が急に屈みこむのが見えた。無垢について私がつくりあげた観念は、こうした夕べから得たものだった。そして激しさを負った彼らの存在を、その欲望が舞う空から決して引き離してはならないと悟った。(続)