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アイヌの骨の返還

 毎日新聞電子版に次のような記事が載っていた。

【ベルリン中西啓介】北海道で盗掘されたアイヌ民族の遺骨がドイツで保管されている問題で、日本政府は遺骨を所有する独民間学術団体「ベルリン人類学民族学先史学協会」(BGAEU)と返還について合意し、31日にベルリンの在独日本大使館で遺骨の返還式を行うことを決めた。複数の関係者が明らかにした。19世紀後半以降、アイヌ民族の遺骨が人類学などの研究対象として海外に持ち出されたが、外交ルートを通じた返還が実現するのは初めて。
 また、日本は2007年に国連で採択された「先住民族の権利に関する宣言」に賛成しているが、返還は宣言に盛り込まれた「先住民族の遺骨返還への努力」を政府が履行した最初の例になる。  返還されるのは、1879(明治12)年にドイツ人旅行者ゲオルク・シュレージンガーが札幌のアイヌ墓地から収集した頭骨1体。シュレージンガーは19世紀の民族学誌で「夜の闇に紛れて入手した」と盗掘による収集だったと認めている。遺骨はBGAEU設立を主導したベルリン大教授のルドルフ・ウィルヒョウに研究資料として提供されていた。
 BGAEUは昨年12月の毎日新聞の取材で、遺骨が「不当な手段」で収集された可能性があることを把握。測定や資料照合の結果、今年1月、「倫理的に許されない手段で収集された」と認め、日本政府と返還協議を行う意向を表明。内閣官房アイヌ総合政策室が在独日本大使館を通じ返還協議を進めていた。  返還式には、北海道アイヌ協会の加藤忠理事長がアイヌ民族を代表して出席。BGAEUのアレクサンダー・パショス代表、日本政府の代表者と共に、返還合意文書に署名する予定だ。ドイツ以外の外国にも複数のアイヌ遺骨が散逸しており、今後返還が実現する場合、今回の政府主催による返還式がひな型になる見通しという。

 幕末の北海道では、来日した欧米人による「アイヌの骨」盗掘事件は繰り返された。d0238372_82431.jpg 
 この不届きな出来事に毅然として立ち向かったのが、当時の箱館奉行小出大和守であった。この経緯については、吉村昭が『黒船』で詳しく書いている。『黒船』は長崎通詞の家に生まれた掘辰之助の生涯を通して、ペリー来航以来、外国との折衝を余儀なくされた日本の姿を描いたもので、そのなかにイギリス人によって盗掘された「アイヌの骨」を取り戻す件が出てくる。
 大和守が箱館奉行として赴任したの文久元年(一八六一年)九月。事件は、十二月二十六日に、平次郎という男が奉行所に来て訴えに及んだことが発端だった。平次郎は箱館の北方、噴火湾に面した森村から北西三里にあるアイヌ人集落の落部村を管理する年寄だった。イラキサンとトリキサンという二人のアイヌが平次郎の許にきて、十三カ所の墓が異国人によって暴かれたと訴え出た。
 異国人は三人で、そのうちの一人はトローンという名のイギリス人で、顔に小さなあざがあるという。訴えのあった翌日、運上所に一人のアメリカ人が来て、外人の間にアイヌの骨を盗掘しているという噂が流れているが、それをご存知かと言った。
 小出奉行は直ちに、自ら英国領事ワイスのもとに赴いて談判したが、イギリス側は言を左右にして言い逃れようとした。これまでの外国との折衝では、日本側が弱腰で、列強の言い分を飲まされることが多かった。だが小出大和守は違っていた。彼は理詰めに相手を追い詰め、最後はイギリス側に、トローン、ケミッシュ、ホワイトリーの三人が、イギリス領事館の小使い千代吉を伴って森村に行って墓所をあばき、全体骨三体と頭蓋骨一個を盗み去ったことを認めさせた。この折衝の通訳と文書の翻訳を行ったのが通詞の掘達之助であった。
 当時、アイヌは縄文土器時代の日本人から発達した人種とされ、人類学上、ヨーロッパ各国の学者の強い関心の的になっていた。事件の顛末は江戸に伝えられ、江戸幕府とパークス公使との折衝となった。パークスの調査で、骨は領事ワイスの兄のイギリスのワイス大佐の許に送られていたことが判明した。
 こうして事件は、骨を六カ月以内にすべて返却すること、イギリス側が賠償金を払うことで決着した。クラレンド外相から、辞職か免官かを迫られたワイス元領事は、最後には自ら辞職した。
 今回のドイツからの百数十年びりの返還は、明治の時代になってからも、アイヌの骨を外国に持ち出す事件があったことを明かしている。
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by monsieurk | 2017-07-23 22:30 | 時事
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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