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ムッシュKの日々の便り

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2013年 03月 01日 ( 1 )

岩永てるみ 日本画展

 東京京橋の春風洞画廊で、日本画家岩永てるみ氏の展覧会「光を映す」を観る機会があった。画廊が制作した図録は、冒頭で作者をこう紹介している。
 「岩永先生は大分県にお生まれになり、愛知県立芸術大学大学院と東京藝術大学大学院で日本画を学ばれ、現在は愛知県立芸術大学で准教授として後進の指導とともに日本画の研究に努められています。また、気鋭の女流画家として日本美術院を中心に作品を発表されて高い評価を受けておられます。
 本展では、ここ数年に取材されたヨーロッパの風景を中心に、刻々と変わる光の表情を、卓越した技術と独特の感性で、先生固有の空間として描いておられます。」
 今回展示されている20点は、鳴門海峡の逆光のなかをいく一艘の船を描いた《海峡》(P10)、西表島の猫を描いた《おひるね》(F6)、ヴェトナム・ハノイの木陰につるされた《鳥かご》(絹本、F4)、そして台北市の植物園に咲く《睡蓮》(SM)の4点以外は、パリ、ローマ、フィレンツェ、ヴェネチア、ロンドン、プラハなど、ヨーロッパの大都会の建物や街角の風景を描いた作品である。
 《雪のルーヴル》(F50)は、ルーヴル美術館の象徴である大小2つのガラスのピラミッドと、旧ルーヴル宮の重厚な建物を背景に、雪がしんしんと舞う風景がとらえられている。《La fenêtre du musée(博物館の窓)》(F30)は、パリ5区の国立自然博物館(Musée d’histoire naturelle)の窓の一つが描かれている。ここは劇作家ポール・クローデルが、「パリでもっとも美しいミュゼだ」と評したように、赤味の勝ったレンガを積んだ建物に大きな窓がはまり、その窓からは、内部に展示示されている標本の白い骨組や、影になった標本の数々が覗き見える。そして窓ガラスには、茜色に染まりかけた空と、手前にある冬枯れの小枝が写っている。こうした一瞬の光景に心惹かれた作者は、それを繊細な筆遣いで画布(今回の作品では和紙が用いられている)に写しとるのである。
 同様の光景は、ローマの古い建物のウインドーに飾られた純白のウェヂング・ドレスを描いた《ローマの休日》(F15)や、イタリア・フィレンツェの有名なベッキオ橋に並ぶ宝飾店の店先を切り取った《橋上の商店》(F10)にも見ることができる。
 なかでも気に入ったのが《La tour Eiffel(エッフェル塔)》(F10)、《Gare de Lyon(リヨン駅)》(F20)、そして写真を載せた《帰郷―リヨン駅―》(F12)の3点である。いずれも画面の上部3分の2ほどを、エッフェル塔の鉄の骨組やリヨン駅の屋根が覆い、《エッフェル塔》の場合はその先に、セーヌ川を挟んで建つトロカデロの薄黄色の建物が見え、《リヨン駅》では、長いコンコースの先に、朝のパリの街がのぞいている。コンコースの柱の時計は午前9時20分をさしている。乗客たちはいましも、遠く南フランスを目指して出発する長距離列車に乗り込もうとしている。
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 一見写真と見紛うこれらの具象画は、写真では決して表現できない立体感をかもしだす。春風洞の赤田清氏によれば、ここには日本画の伝統が培ってきた技法が駆使されているという。墨のような黒色は、よくみると瀝青を焼いて特別につくった絵具が用いられており、天井を走る無数の細い線は面相筆(藤田嗣治が用いてヨーロッパの人たちを驚嘆させた日本画特有の細筆)で描かれており、列車に乗り込もうとしている影のような乗客たちは、「たらし」の技法で大胆に処理されている。
 岩永てるみ氏は、東京藝大では文化財保存学科の保存修復専攻に学び、文化財修復で博士号をとっている。日本画のさまざまな技法に通じているのは当然であり、それがヨーロッパの風景と出会って、稀有の効果を生みだしたのである。氏自身も、「もともと日本画には光の概念というものはあまりありません。しかし、風景を映し出し、かたちを創り、美しく輝かせる要素として光は大きな役割を果たします」と述べている。
 残念なのは、春風洞での会期が3月2日までしかないことである。次にまたこれらの作品に出会える機会を待ちたい。
by monsieurk | 2013-03-01 05:30 | 美術
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フランスのこと、本のこと、etc. 思い付くままに。


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